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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第126話 過去の亡霊

挿絵(By みてみん)




 第三回廊区。ルチアーノ邸。ダイニングルーム。


 大量の絵画やシャンデリアが部屋を彩り、中央には食卓。


 その上には一人分の食事と、包帯が巻かれた右腕が置かれていた。


「再開のハグ……といきたいところだが、時間がねぇ。取引といこうや」


 ラウラは再開を喜ぶ暇もなく、本題を切り出した。


 第三回廊区の傾向は、ここまでにかなり掴めていた。


 全てに共通していたのは、一人のボスを攻略すること。


 『ブラックマーケット』は、ラウロがボスで間違いねぇ。


 親父を攻略すれば、恐らくここは、攻略済み扱いになる。


 ただ、重要なのは、必ずしも倒す必要はないってところだ。


「大人になったね。父親が相手なのに、まるで他人みたいだ」


 すると、ラウロは鋭い角度から反応を示した。


 イエスでもノーでもない。ハッキリしない返事だ。


 間延びさせる展開に苛立ちながらも、ふと冷静になる。


(なんでだろうな……。聞きたいことは山ほどあるのに、勝負を優先しちまう)


 親父の死の真相を探れるかもしれない機会。


 さらには、死んだ親との感動の再開ってやつだ。


 涙の一つや二つを流したって、罰が当たらない場面。


 それなのに、涙も懐かしむ感情も一切湧いてこなかった。


「時間がねぇって言っただろ。取引を受けるか受けないかで答えろ」


 ラウラは妥当な理由を口にして、話を進める。


 実際、悠長にしてられない状況なのは変わらねぇ。


 攻略した扉の数は三つ。今いる場所が、四つ目になる。


 相手の攻略数は不明だが、ゲームの終わりが近いのは確か。


 与太話をする間にも、ジェノを奪われる可能性が高まるからな。


「内容次第だね。詳しく話を聞かせてもらおうか」


 椅子に座りながら、足を組み、ラウロは答える。


 思惑通り話は進み、問題は取引の内容へと向けられた。


 ラウラは目線を落とし、置いた右腕に指を差し、言い放つ。


「ネクロノミコン外典。こいつをやるから、ここを通してくれ」


 取引。というには、あまりにシンプルな内容だった。


 相手の欲しいものをやる。代わりに欲しいものをもらう。


 ただそれだけ。霊体相手に馬鹿らしいが、すでに実践済みだ。


 霊体の趣味嗜好は生前に依存し、欲しいものを与えれば通用する。


 与えるブツは使えるかもしれねぇが、中身を考えれば、手に余る代物。


 ここで手放せば、厄介払いになるし、攻略に繋がるなら、一石二鳥になる。


「魅力的だね。こいつは僕が欲する邪遺物イヴィルの中で、最上位に位置する品の一つだ」


 置かれた右腕を手に取り、うっとりとラウラは眺め、語り出す。


 反応は上々。邪遺物イヴィルだったのは初耳だが、これなら押し切れそうだ。


「だったら決まりだな。さっさと――」


「ただこいつは……今の僕が一番欲しいものではないね」


 焦るラウラに対して、ラウロは冷静に告げる。


 右腕はテーブルに置かれ、視線は下を向いている。


 ようするに、答えはノー。取引には難色を示していた。 


「おいおい、冗談はよしてくれ。あんだけ自慢げに語ってただろ」


「それは僕であって僕じゃないよね。あくまで、過去の話ってやつだ」


 過去。ラウロの言葉に、喉元まで出かけた暴言が止まる。


(ちょっと待て……。なんか変だぞ……)


 唐突に生じるのは、確かな違和感だった。


 ラウロ・ルチアーノが死んだのは、過去の話。


 それは分かる。時間の流れから考えれば、自然だ。


 ただ、この世界の時間軸から考えてみれば、おかしい。


 ルチアーノ邸は親父が死んだと共に、全焼してなくなった。


 親父がまだ生きていて、実家が残ってるってことは過去の設定。

  

 つまり――。


「待て。ここは過去で、親父にとっては未来の話だろ。矛盾してねぇか」

 

「いいや、舞台は過去でも、僕は死後。未来の霊体だから、矛盾はしてないよ」


 違和感に結論を出すが、すぐに言い返される。


(そうか……。舞台と霊体は時間軸が同じじゃねぇのか)


 短いながらも、的確に情報がまとめられている。


 深く掘り下げなくとも、親父の状況は大体分かった。


 ただ、それを踏まえた上でも、分からないことがあった。


「それなら、今の親父が一番欲しいものってのはなんなんだ?」


 これはあくまで、取引。矛盾を指摘する話じゃない。


 取引相手の要望を知る。それは、ごく自然な流れだった。


「決まってる……」


 ラウロは質問に対し、落ちた目線を上げる。


 次第に目と目が合うと、ピンとくるものがあった。


(あぁ……この流れって、まさか……)


 頭を抱えたくなる。きっとこいつは、即断できない内容。

 

 浮かんだ嫌な予感が外れることを祈りながら、その時は訪れた。


「君だよ、ラウラ。ここに残って、僕と生活を送ってくれないか」


 要望は、愛する娘との同居。長考する必要のある回答だった。

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