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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第124話 見覚えのある場所

挿絵(By みてみん)





 第三回廊区。ニューヨークブルックリン。


 自由の女神が見える埠頭にはコンテナが集まる。


 合法違法問わずの品が運ばれ、マフィアが取り仕切る。


 中でも違法品は埠頭の市場で売られ、浮浪者が売人を勤めた。


 行き場を失った人に居場所を与え、違法品売買の責任を押し付ける。


 警察は末端にしか対応できず、市場は社会から黙認される形となっていた。


 ――人々はマフィアの理想郷とも言えるこの場所を、こう呼んだ。


「おいおい、よりにもよって『ブラックマーケット』かよ……」


 市場の通りを見回し、勝手を知るラウラは語る。


 屋台、浮浪者、コンテナ、昼なのに夜のように暗い。


 回廊区の扉の先にあったのは見覚えしかない光景だった。


「その名の通りといった雰囲気ですね。訪れたことがあるのですか?」


 そこで話に応じるのは、隣に立つアミだった。


 腰の刀に手をかけ、いつでも戦える姿勢を作っている。


「訪れるも何も……。いや、それより時間がねぇ、先を急ぐぞ」


「急ぐのはもちろん構いませんが、何かアテでもあるのですか?」


 ラウラは通りを走り出し、アミは併走しながら尋ねる。


「ここは言っちまえば、『城下町』。本命の『城』には心当たりがあるんだよ」


 詳細を伏せつつ、ラウラは理由を告げ、市場を駆け抜けていった。


 ◇◇◇


 市場を抜けた先には、手入れが施された外庭があった。


 1000坪は優に超える、世間一般では豪邸と呼ばれる敷地内。

 

 ラウラは森林を駆け抜けて、辿り着いた先には家が建っている。


 外庭と内庭を仕切る鉄門扉と噴水。そして、黒服の見張りが見える。


 門扉に二人。内庭には二人。家の入口には二人。計六人体制で守られる。


「……なるほど、ここが『城』ですか。まさに、という出で立ちですね」


 シンメトリーな白亜の豪邸を見て、アミは腰の刀を抜こうとする。


 ここは、辺りを安全に見渡せる程度の木陰。まだ位置はバレてねぇ。


 それなのに、今にも正面から突っ込んでいきそうな勢いが感じられた。


「待て。手荒な真似をする必要は、たぶんねぇよ」


 すぐにラウラは、肩に触れて蛮行を止める。


 不安ながら視線を向けた先には、門扉と見張り。


 確証はねぇが、試してみたいことが一つだけあった。


「どういうことでしょう?」


「……まぁ、そこで黙って見とけ」


 反論させる暇もなく、ラウラは押し切るように、一歩足を踏み出す。


 時刻は昼。天気は晴天。明るみに出たラウラは、自然と見張りと目が合った。


「一つ聞く。なんの用件があってここに来た」


 対応したのは、スキンヘッドで短い青髭を生やす中年の男。


 背丈は180cm前後。体は細身ながら、筋肉質なように感じる。


 両手を前に組み、武器はねぇ。己の肉体だけが頼りのタイプだ。


 茶色のセンスを体に纏い、回答次第では武力行使も辞さない覚悟。


 面倒なことこの上ない展開だが、こっちには打算と切り札があった。


「――貼り付け《ペースト》」


 右手を前に突き出し、短い詠唱をする。


 男は対応しようとするも、顔色が変わった。


 突如、現れたのは、包帯に文字が刻まれた右腕。


 能力『切り取り(カット)貼り付け(ペースト)』。こいつは、その一端。


 裁ちばさみで切り取ったものを、取り出すことができた。


「ネクロノミコン外典。こいつを売りに来た。通してもらえるか」


 ラウラは手短に本題を告げ、多くは語らない。


「……通っていいぞ」


 見張りは数瞬ほど沈黙した上で、独自の判断を下す。


 無線機を持っているにもかかわらず、確認を取らなかった。


 読みは当たった。こいつを持つ相手は、無条件で通せとの命令だ。


「刀を持った連れが一人いる。ついでにそいつも通してもらうからな」

 

 トントン拍子で話は進み、暴力沙汰もなく、ラウラたちは潜入に成功した。


 ◇◇◇

 

 豪邸内。エントランスから左右に分かれる階段を上り、二階に向かう道中。


 階段上にある赤いカーペットを踏みしめながら、アミは不思議そうに語り出す。


「……どんな手品を使ったのですか?」


 見張りの引率もなく、刀も没収されなかった。


 ある意味で、VIPとも言える待遇に疑問があるらしい。


「ここのボスの趣味を……把握してたってだけだ」


 ラウラは右腕を真上に放り投げ、キャッチしながら、応対する。


 そこで会話は終わり、話し込むこともなく、二階にたどり着いた。


 目の前には、両開きの赤い扉。迷うことなく手をかけ、開いていく。


 見えるのは、ダイニングテーブルと、一人分の食事と、椅子に座る男。


「……おかえり、ラウラ・ルチアーノ」


 白いナプキンで口元を拭い、青髪の男は立ち上がる。


 ここに来るのを確信していたような、そんな回答だった。


 感知系の能力の一端なのか、来るべき未来を知っていたのか。


 どちらでも構わねぇ。ただ、ここで言うべき台詞は決まっていた。

 

「帰ったぞ、ラウロ・ルチアーノ。……いいや、親父」


 父と娘は期せずして再開し、第三回廊区の攻略は大詰めを迎えていた。

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