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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第123話 トラウマ

挿絵(By みてみん)




 第三回廊区。白い廊下の外側では、ある勝負が始まっていた。


 二対二に分かれ、別世界に通じる扉を攻略した数を競うゲーム。


 勝った方がジェノ・アンダーソンの身柄を確保できるという条件。


 ただ、人数に制限が設けられたため、攻略に参加できない者がいた。


 扉がせわしなく開閉するのを横目で見つつ、狼男ガルムは思念を送る。


『君は……どの扉からやって来たんだ?』


 彼が扱うのは人間同士で使われている言語ではない。


 言語が違う同士でも送受信が可能になる能力、思念通話テレパシー


 例え、相手が魔物であっても、意思疎通を取ることができた。


『たぶん、ここ以外の扉かな。根拠はないんだけどね』


 ヘケヘケは通話に慣れてきたのか、上手く思念を返した。


 なんのノイズもなく、読み取れない言語は一切混ざっていない。


 キャッチボールのようなもので、最初は戸惑うも、慣れればこうなる。


『少し聞き方を変えよう。元いた場所は、どんなところだった?』


 ガルムが続けるのは、ヘケヘケの掘り下げだった。


 自分と類似した人外の獣。そこに、興味を引かれていた。


 あわよくば、この身体の元となった存在が分かるかもしれない。


『穴の底? みたいな場所に洞窟がいっぱいあって、色んな魔物がいたよ。僕と似たようなタイプもいるし、僕よりもでっかくて強いのもいる。それとね、魔物として強くなれば強くなるほど、下の階層で棲むことができるんだ。ただそのせいで、縄張りの区画が厳しくて、定められた場所から自由に移動できない決まり、『階層不動の禁』ってルールもある。破ったら最悪、殺されちゃうんだ……』


 ヘケヘケが語るのは、原始的だが理に適ったルール。


 食物連鎖の逆ピラミッドと考えれば、すぐ理解できた。


 動物の本能。弱肉強食の延長線上にあるから腑に落ちる。


 ――ただ、あまりにも厳格すぎる。

 

 知能が低い魔物が考えたとは思えないルール。


 食物連鎖の上に、現実社会の秩序を組み込んだ気配。


 いわば、法律。犯罪を犯した魔物を裁くための狡猾な知恵。


『そのルールを定めたのは、誰だ?』

 

 知的好奇心に従うまま、ガルムは尋ねる。


 正直、何か裏があるようにしか思えなかった。


 罪状認否の秘匿事項を被告人から尋ねる時に近い。


 いわば、パンドラの箱。墓に入るまで抱える秘密だな。


(まぁ、賢い魔物がいたってオチだろうが……)


 ただ、魔物の生態系に関しては、全くの無知。


 こんな身体をしていながらも、なんの知識もない。


 手掛かりになればいいが、大した期待はできなかった。


『聖女マルタ。巣と僕たちを作ってくれた神様だよ』


 しかし、予想に反し、戦慄が走る。

 

 偶然の一致でも、人違いとも思えない。


 パンドラの箱を、開けてしまった気がした。


 ◇◇◇


 第三回廊区。ニューヨークマンハッタン。十番街通り。


 無数の摩天楼がそびえる眠らない街。その一角にある店。


 『クラブディーノ』。淡いネオンの光が、夜の闇を照らす。


「……どうした、入らないのか?」


 声をかけてきたのは、同行しているパオロだった。


 ルール上、急がないといけないのは頭で分かってる。


 ただ、どうしても足が拒む。進みたくても、進めない。


「少し、思い入れがある場所でね」


 マルタは視線を上げ、しみじみと語る。


 ここは始まりの場所であり、終わりの場所。


 全てが捻じ曲がってしまった、特異点的な空間。


「惚れた男にでも振られたか?」


「まぁ、大体そんなところだよ……」


 パオロの問いに、マルタは曖昧な反応を示す。


 詳細は語れない。語ったところで勝敗には直結しない。


「傷心に浸りたいなら、勝手にしろ。僕は一人でもいくぞ」


 事情を知らないパオロは、一歩踏み出す。


 中で待ち受ける存在を知らずに、前だけを見ている。


(神様ってもんは、残酷で皮肉だねぇ……)


 そこで思い返されるのは、惨敗した過去の記憶。


 引き返すには十分すぎる思い出が、ここにはあった。


 寝ても覚めても頭に残り続ける、トラウマってやつだね。


 下調べを完璧だと思い込み、乗り込んだ先にいたのは、格上。


 あの子が歩もうとしてる道は、遥か昔に通った道と酷似していた。


「…………」


 何も知らないパオロは、入口の扉に手をかける。


 中からは爆音が響き、外にまで漏れ聞こえていた。


 このまま何も教えずに、黙って見送ることもできる。


 最悪、逃げ帰って、巣に引きこもる選択肢だってある。


(あぁ……。見殺しは御免だね。あんな思いは一度で十分だ)


 マルタは自分自身のトラウマと向き合う覚悟を決める。


 あの日以来、懐にひそめていたものを取り出し、言い放つ。


「……待ちな。中は耳栓が必須だよ。『音』で人を操る能力者がいる」


 その手の中には、ツーペアの耳栓が握られていた。


(これでいいんだろ。ダンテ……)


 マルタは一人の男に思いを馳せ、ジェノを賭けた最後の攻略が始まった。


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