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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第122話 強情な交渉③

挿絵(By みてみん)





 できるかどうかは賭けだった。


 失敗して、死ぬ確率の方が高かった。


 でも、上手くいった。どうにかしてやった。


 助けを呼ぶとしたら一人しか思い当たらなかった。


「命令をどうぞ、ご主人様」


 要望に応えたのは、未来のジェノ。


 頼りにできる死者は、彼しか知らない。


 当然、彼に下す命令はすでに決まっている。

 

「あいつを倒すから手伝って」


「……………………仰せのままに」


 サーラは命令を飛ばし、未来の兄は要望に応える。


 深く話し込む必要はなく、目標をたった一つに定める。

 

 揃った二人の目線の先には、動揺の色を見せる宿敵がいた。


「まさか、六人目の魔法使いの誕生を、この目で拝める日が来るとはね」


 マーリンは、起きた現象を咀嚼するように語り出す。


 魔術師だろうが、魔法使いだろうが、心底どうでもいい。


「褒めたところで、見逃してあげる気は……ないから!」


 サーラは丁寧に外された左肘の骨をはめ、駆ける。

 

 マーリンが追い込まれているのは、感覚で分かってる。


 相手のセンスは、枯渇寸前。守護符を使えるかすら怪しい。


 今なら体術でも十分通用する。二人掛かりなら、きっと倒せる。


 心強い味方と共闘するイメージを浮かべながら、隣に視線を送った。


「……」


 しかし兄は、その場から一歩も動いてはいなかった。


 虚ろな目をして、ぼーっとこちらを眺めているだけだった。


(は? 動いてない? なんで……)


 確かに、霊杖の能力は読み取った。


 間違いなく、同じ力を発揮して見せた。


 ただ、何かが欠けている。そんな気がした。

 

 その間にも敵との距離は迫り、やがて接敵する。


「…………」


 マーリンは杖で拳を受け止め、真顔を作っている。


 じかに触れているのに、感情もセンスも読み取れない。

 

 喜んでいるのか、落胆しているのか。何も伝わってこない。


(これも予期した展開? 計画の一部? わざと泳がされた?)


 脳内は、マイナスの情報で溢れ返っていた。


 有利なはずなのに、有利に思えなくなっていく。 


「君は……彼の何を知ってるんだい?」


 すると、マーリンは薄目を開き、問いかける。


 声音は低く、今までにないぐらい真面目に接している。


 今までの軽い口調じゃないせいか、怒っているようにも感じた。


「わたしの未来のお兄ちゃん。それ以外の情報は必要ないでしょ」


 サーラは拳をぶつけながら、質問に答える。


 意思の力は、イメージできるかどうかが全て。


 動揺させて、技を崩すための作戦に決まってる。


 動いてくれないのは命令が少し曖昧だったせいだ。


 戻って、きちんとお願いすれば、動いてくれるはず。


「……確かに、それでも能力は発動する。魔術の概念を超えた以上、魔法と該当されるだろう。だけど、君のやってることは死者への愚弄だ。生まれた瞬間から、死ぬまでの過程を知らずして、どうやって、死者の魂を理解するのかな」


 マーリンは、冷たく淡々と能力の欠陥を指摘する。


 怒ってくれた方が良かった。それなら、まだ割り切れた。


 だけど、これは違う。相手の魔術にかけた熱量が伝わってくる。


 対するこっちは、敬意も配慮も大した思い入れもなく、パクっただけ。

 

 技術的にはマーリンの一枚上を行ったのに、精神的には劣ってしまっていた。


「……知ったような口を叩いてるけど、そっちはできてんの?」


 サーラは拳を放し、距離を取って、話を広げた。


 この会話は無駄じゃない。今後、確実に必要になる。


 分霊室の住民たちを呼び出すには欠かせない内容だった。


「僕の両目は観測の魔眼と言ってね、興味のある対象の過去現在未来を知ることができる。僕が君にやらせたことは最低かもしれないけど、死者への敬意は忘れたことはなかった。分霊室にいた住民一人一人の人生に興味を持って向き合い、やりたいことを尊重してあげた。一方で、今の君はどうだい? 未来のお兄ちゃん、という断片的な情報だけで死者を呼び出して、彼はフリーズしてしまった。果たして、死者の目線で見た場合、どちらが悪に見えると思う?」


 マーリンの言葉を受けて、サーラは振り返る。


 そこにいたのは、外見だけなぞった中身のない霊体。


 生気のない目線が、こっちを責め立てているように感じた。


「違う……。わたしは殺されかけて、仕方なく……」


「君の事情は聞いてない。彼の立場ならどう思うのかを聞いているんだ」


 言い訳を重ねる暇もなく、マーリンは正論を重ねる。


 上手くいったと思ったのに、何も分かっていなかった。


 上辺だけをなぞっただけで、本質を理解していなかった。


 説明されて、現状を理解して、質問への回答にたどり着く。


「…………わたしが悪い」


 サーラは、自らの非を認める。


 きちんと納得した上で、結論を出す。


 すると、呼び出した未来の兄は消えていた。


 魔法というには、名ばかりな技が消滅していった。


「だったら、君の守護霊で僕を封印してくれ。百年後に今よりも万全な状態で、死者交霊約定リビングデッドを使い、分霊室にいる全員に居場所を与えることを約束する。王位継承戦の被害者にもさせない。それが、今の君のやりたいことなんだろう?」


 そこでマーリンが持ち出したのは、的確な交渉材料だった。


 恐らく、センスは底を尽きかけ、自殺もできないのかもしれない。


(これ以外ない……。これ以上のものをわたしは用意できない……)


 与えられた条件を前に、心が揺らぐ。


 非の打ち所がない、完璧すぎる条件提示。


 任せれば、全部上手くいくような気さえする。


 そう思ってしまうほどの、死者への熱量もあった。

  

「…………」


 懐から取り出すのは、王霊守護符。


 マーリンの提案に心が傾きつつあった。


(これで、いいんだよね?)


 サーラが行うのは、最後の自問自答。


 王位継承戦に、幕を引かせるための問い。


 相談役はいない。一人で考えないといけない。


 唐突な不安に襲われ、何かに頼りたくなってくる。


 なんでもいいから、誰かに判断を仰ぎたくなってくる。


『何もかも神に判断してもらうんじゃなく、自分たちで判断しろよ!』


 そこで思い返させるのは、自分が口にした言葉。


 それが巡り巡って、自分のところへ返ってきていた。


 ――悪口のブーメランってやつだ。


 偉そうに言ったけど、説教する資格なんてない。


 信徒の気持ちが分からないのに、諭せるわけがない。


 きっと裁判は、勢いで押し切らせてしまっただけなんだ。


「約束してよ。わたしの代わりに、住民を幸せにするって」


「ああ、神に誓うよ。君の代わりに、彼らが望むことをさせる」


 最終確認を行い、否定する材料はなくなった。


 後は守護霊を呼ぶだけで、全てを託すことができる。


 自分よりも上位互換の能力が使える相手に、任せられる。


 肩の荷が下りて、王にもなれて、贅沢な暮らしが待っている。


 世界一のお金持ちには少し遠いだろうけど、近いとこまで行ける。


「……彼らが望むことって何?」


「子孫繁栄のための世界征服。僕が指導者になって、彼らを先導するよ」


 生じた疑問に対し、マーリンは即答した。


 吐き気を催すほどの邪悪。考えるだけで身震いする。


 ようやく本性を現した。彼の心はどこまでも腐り切っている。


「あぁ、やっぱ今のなしで」


「だろうね。だったら、こっちにも考えがある」


 交渉は決裂。話は次のステップに移行する。


 マーリンが懐から取り出したのは、王霊守護符。


 目的は自殺による王位継承戦の継続。距離はド密着。


 止められるもんなら止めてみろって感じの間合いだった。


 ――きっと、これが最後の攻防となる。


 自ずとやることが明確になり、サーラは備える。


 息を整え、相手を見据え、万全の状態で待ち構える。


 王墓所には沈黙が走る。重苦しい空気と緊張感に満ちる。


 一瞬も目が離せない。瞬きもできない。息を吸うのも惜しい。


 永遠のように感じられるし、時間が止まったようにも思えてくる。


 ――ただ、その時はやってきた。


「「「―――――――召喚」」」


 響いたのは、同じ意味を示す三人の声。 


 現れたのは、白銀の鎧と黄金の鎧と巨大な赤鳥。


 突如、参戦したアルカナによって、場は混沌に支配された。

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