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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第118話 一瞬の攻防

挿絵(By みてみん)





 目の前にいた二人の女性が消えた。


 何らかの移動系能力を行使した影響だ。


 残ったのは次元斬と、死にたがりな初代王。


 黄金の鎧を纏う守護霊はすでに消えかけている。


(リーチェとエミリアが脱落。守護霊は一回行動が限界。……だったら)

 

 アンドレアは冷静に分析し、距離を詰める。


 左足に渾身の力を込め、勢いよく放つのは足払い。


 背中を向けて油断する、マーリンの足元を的確に捉えた。


「…………っ」

 

 バチリと激しい黒の火花が散り、クリーンヒット。


 不気味なほど簡単にマーリンは転んで、体勢が崩れる。


 直後、二筋の斬閃が空を薙ぎ、無理心中は不発に終わった。


 黄金の鎧も二振りの刀も粒子となって、あっけなく消えていく。


(これで最悪の展開は免れた。万全を期すなら、アレを……)


 すかさずアンドレアは、右拳を握り、振り下ろす。

 

 狙ったのは転んだ本体じゃなく、金色の札。王霊守護符。


 手応えのない本体を倒すより、自殺を阻止する方が先決だった。


「……それは、おイタが過ぎるんじゃない?」


 しかし、マーリンは杖を振るい、拳を受け止める。


 『破壊』をまともに食らっておきながら、反撃に転じた。


 杖にも体にも、物理的なダメージは通ってないと見るのが妥当。


 面倒なことこの上ないが、それと付随して、有益な情報が手に入った。


「……そうか。よほど、そのお札が大事らしい」


 アンドレアは敵の弱点を的確に見切り、拳の乱打を浴びせる。


 杖と体には見向きもせず、左手にある王霊守護符に狙いを定めた。


 接敵は一瞬。転んだマーリンが背をつくまでに幾多の攻防を繰り返す。


 拳と杖は衝突し続け、黒と薄紅の閃光が線香花火の如く、空中で煌めいた。


「――」


「――」


 二人は互いの力量を察し、笑みを浮かべる。


 この感情は、余裕でも、慢心でも、嘲笑でもない。


 磨き上げられた体術の衝突を、心の底から楽しんでいた。


 なぜなら、この攻防だけは、互いの力を競う『武道』だからだ。 


 王霊守護符を巡って争っているだけで、殺意や邪心が一切存在しない。


 だからこそ浮かんだのは、笑み。敵対している相手への最大限の賞賛だった。


(生まれた時代や背景が異なれば、こいつとは……)


 時間にすれば、ほんの一秒にも満たない。


 それなのに、時間以上の親近感が湧いてしまう。


 脳内には、マーリンと肩を並べる光景が浮かんでいた。


「君との殴り合い……悪くなかったよ」


 そんな一瞬の隙間に、声が響いた。


 決着がすでについたような趣旨の発言。


 細目を薄っすら開き、哀れむ視線が見える。


「まだ勝負は――――っ」


 飛びかけた意識を現実に戻し、アンドレアは拳を振るう。


 致命的なタイムラグを感じながらも、挽回する勢いで放った。


「債務不履行」

 

 しかし、杖先が身体に当たる。


 放つ拳よりも速く、左胸に触れる。


 マーリンの放った言葉は、理解できる。


 こいつは、『再生』能力では完治できない。


「俺の負けだ――――」


 アンドレアは素直に負けを認め、清々しい気持ちで現世を去った。

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