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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第117話 死線

挿絵(By みてみん)




 ほんの一瞬の隙をつかれた。


 コートの中に手を突っ込まれた。


 的確に取り出したのは、王霊守護符。


 盗んだ張本人は、堂々とこう言い放った。


「…………召、喚っ!!」


 初代王マーリンによる詠唱。


 その瞬間、頭は嫌でも事態を理解する。


(やられた……っ)


 王霊守護符は王子しか使えない。


 頭の片隅には、そんな固定概念があった。


 それを逆手に取られた。そのせいで反応が遅れた。


(いや、問題は……何が現れるか。どんな能力か。誰を対象にするか)


 すぐに意識を切り替え、リーチェは後手に回る。


 本命は、『破壊』を無効化するサポート系の守護霊。


 次点で、目標を一気に殲滅する、広範囲攻撃系の守護霊。


 大穴狙いなら、因果や概念そのものに干渉する特異な守護霊。


 現段階で思いつく限りの予想を連ね、不測の事態に備えていった。


「…………」


 そこでふと、不敵な笑みを浮かべるマーリンの姿が目に入る。


 妙な違和感があった。何か決定的な見落としをしている気がする。


 真っ白なキャンバス。そのほんの一部分が、黒く滲んでるような感覚。


(この感じ……覚えがある。でも、どこで――)


 リーチェは、違和感の正体を探る。


 その間にも、目の前の空間が歪んでいく。


 場所はマーリンの背後。規模は二メートル程度。


 守護霊が召喚される前兆。気付いても、手遅れな状況。


 そこで脳の回路が繋がる。共通している光景を繋ぎ合わせる。


(思い出した。……大統領レオナルド・アンダーソンと同じ)


 答えに至ると同時に、空間に亀裂が入り、現れたのは黄金の鎧。


 両手には金と銀の刀を持ち、斬りかかろうという強い意思を感じる。


「……そうか。自殺して、継承戦を終わらせる気だ! 止めろ!!」


 そこでアンドレアが示したのは、敵の思惑。


 守護霊に殺されれば、百年間封印される仕組み。


 エミリアから耳にタコができるほど聞かされた情報。


 王子が殺す前提だったけど、自殺も適用されるとしたら。


「くっ……」


 深く考え込む時間もなく、体は勝手に動き出す。

 

 ほんの一瞬、リーチェは地面に手を触れて、跳躍。


 身体には、真球状の青いセンスを纏い、割って入る。


「「「――――――――」」」

 

 金と銀の刃が横薙ぎに振るわれ、球体と接触。


 青い火花を散らして、拮抗状態を生み出していく。


 アンドレアの予想は的中。刃はマーリンに振るわれた。

 

 目的は自殺による王位継承戦の延長。それだけは阻止する。


「優しいね。今になって父親への愛に目覚めてくれたのかな?」

 

 すると、後ろからは背筋がゾッとする声が聞こえた。


 勘違いにもほどがある。愛とは真逆の感情によるもの。


 そう言い返してやりたいけど、そんな余裕は微塵もない。


「――――――――っっっ」


 リーチェが纏っているのは、絶対防御を誇る障壁。


 地球の自転エネルギーを込めた、量的センスの極致。


 それなのに、黄金の鎧が振るう金の刃は進行していた。


 球体を少しずつ斬り裂き、腹部に到達しようと迫り来る。


(あいつと同じなら、能力は『次元切断』。相性が悪すぎる……)


 『破壊』の能力は、対象を指定するものだった。


 だから、障壁を対象と認識して、防ぐことができた。


 でも、『次元切断』は、対象を指定せずに発動する能力。


 障壁ではなく、次元そのものを斬り裂いているから関係ない。


 それでも緩やかな進行程度で留まっているのは、イメージの問題。


 『次元切断』を扱う守護霊が、接触時に硬いという認識を持ったから。


(このままじゃ、緩やかな死を待つだけ……。だったら……っ)


 意を決し、リーチェは一か八かの賭けに出る。


 障壁を解き、余った分を全て、螺旋の拳に当てる。


永劫回帰(プリモ・モビレ)


 リーチェが余儀なくされたのは、短文詠唱による必殺の発露。


 完全な詠唱をする暇はなく、防御に手を回せる余裕もなかった。


 だからこれは、捨て身の特攻だ。理由は、憎んだ父親を守るため。


 愚かな行動を取る自分に溜息が出そうになるけど、今更止まれない。


「――――」


 拳から放たれる衝撃波と、黄金の鎧は接触する。


 狙いは刃を止めることじゃない。鎧を飛ばすこと。


 刀の軌道が有効射程外になれば、助かると見込んだ。


「……ぐっっ!!」


 だけど、ジワリと焼けるような痛みが腹部に走る。


 歯止めを失った刃が、吹き飛ばすよりも先に到達した。


(間に合わなかった。このままじゃ……)


 濃厚な死の気配。肌の表面が妙にヌメッとする。


 何かしようとしたところで間に合わない。遅すぎる。


 やれることと言えば、技の成功を祈ることぐらいだった。


「さぁ、一緒に黄泉の国へ行こうか」


 最悪の状況の中、ガシッと後ろから抱き着かれるのを感じる。


 父親のマーリンが、娘と共に無理心中を図ろうとしている構図だ。


(これが、限界か……)


 何の抵抗もできない自分に、嫌気が差した。


 因果応報と言えばそれまでだけど、ひどすぎる。


 せっかく復活できたのに、この仕打ちはあんまりだ。

 

(せめて、故郷を滅ぼした白銀の鎧の中身を知りたかったな)


 そこでリーチェが思い浮かべるのは、後悔。


 父親の記憶が薄れているとはいえ、消えない思い。


 復讐。負の感情に胸の内を支配されながら、死を待った。


「――これにて、案内は終了致します」


 しかし、その時は訪れない。響いたのは、案内人エミリアの声。


 能力終了の合図と共に、リーチェとエミリアは分霊室から姿を消した。

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