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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第107話 対立

挿絵(By みてみん)




 第三回廊区。一本道の白く長い廊下。


 入口と出口を含め、十四枚の扉が連なる。


 中央付近には、倒れ込んだジェノと広島の姿。


 すぐそばには、紛れ込んだ魔物。ヘケヘケがいた。


 場は静寂に満ちながらも、異様な緊張感が走っている。


 主を体一つで守る。そんな重圧からくるものかもしれない。


『…………何か、来る』


 しかし、すぐに根拠のある感覚だと悟った。


 かなり近くから、人の気配を感じ取ったからだ。


 反射的に黄金の光を体に纏い、最大限の警戒を示す。

 

「「――――――」」


「「「――――――」」」

 

 案の定、ガチャと音が鳴り、扉が開かれる。


 開かれたのは、二か所。前方の扉と、後方の扉。


 もし、両方とも敵なら、挟まれる形になってしまう。


 しかも、強い気配が五つ。真正面から勝てるかは怪しい。


(まずいな……今の僕じゃ勝てないかも……)


 頭によぎるのは、無残に負ける自分の姿。


 種族長になりたい。あの夢はまだ叶ってない。


 ここで負けてしまえば、志半ばで終わってしまう。


 すると、体を纏っている光が徐々に弱まるのを感じた。


(いや、弱気でどうする……。この人だけは、僕の命に代えても守るんだ!)


 ヘケヘケは己を励まし、来たる侵入者に備える。


 目は二つしかついてない。両側を警戒するのは不可能。


 だから、山を張る。特に強い気配を放つ、後ろに目を向けた。 


『………………』


 侵入者が見えた。魔物と男と女の三人組。


 魔物は狼系で、二足歩行で格闘タイプの種族。


 男は鞘に納まる剣を持ち、近接に頼るタイプの人。

 

 女は大弓と矢を持っていて、遠距離に頼るタイプの人。


 戦闘スタイルに偏りがなく、バランスが取れた編成だった。


 まともにやれば、確実に苦戦する。そう冷静に分析していると。


(あれ……。あの人って……)


 一人の人間と目が合い、妙な既視感を覚えた。


 人間の知り合いは少ないのに、どうも引っかかる。


 知ってる人間の中で、最も強い人と似ている気がした。


(ううん。気のせいに決まってる。そんな偶然あるわけ――)


 すぐに考えを否定して、起こるべき事態に備える。


 もし、本人だったら百回挑戦しても、一回も勝てない。


 それぐらい実力差がある相手。妄想でも考えたくなかった。


「へぇ……。こんなところまで出張したのかい。ヘケヘケ」


 だけど、悪い予感は的中してしまう。


 既知の証。名前を呼ばれてしまったんだ。


 ◇◇◇

 

 目の前には、見知った魔物がいた。


 ヘケヘケ。地下世界で生まれた最弱の魔物。


 その称号に似つかわしくない、戦果とセンスを持つ。


「魔物……。肩慣らしには、ちょうどいい」


 するとパオロは、今にも剣を抜こうとしている。

 

 古流剣術を体得した彼なら、斬り捨てるのは容易い。


 『雲耀』に至る斬撃に対応できるほど、育っちゃいない。


 一撃で葬られる。センスの有る無しに関係なく、決着がつく。


「待ちな。アレは無害だよ。……それより、問題は奥の人間だね」


 マルタは逸る肩に手を置き、パオロを止める。


 視線は自ずと、奥の扉から現れた人物に向いた。


 別陣営の侍従。ラウラ・ルチアーノと臥龍岡アミ。


「――お前は誰だ」


「――どちら様ですか」


 二人の女性はセンスを纏い、敵意を向ける。


 分霊室は基本、関係者以外入ることはできない。


 第四王子の変装が解けた今なら、当然の反応だった。


「聖女マルタと名乗っておこうかね。戦う気はないよ」


 一から十まで説明するほど馬鹿じゃない。


 端的に自己紹介をして、相手の反応を待った。


「そっちに気がなくても、こっちには――」


「……待ってください。目的をお聞かせ願えますか?」


 逸るラウラをアミは止め、話を進める。


 感情で動くタイプと、理屈で決めるタイプ。


 パッと見だと悪くない二人一組のように思えた。


(見ないうちに色々と変化があったようだね。まぁ、ともかく――)

 

 状況を整理して、やるべきことを定める。


 誰が現れようとも、優先順位は変わってない。


「ジェノ・アンダーソンの身柄。それ以外には興味ないよ」


 マルタは嘘偽りなく、質問に答える。


 通じるかはともかく、これだけは譲れない。


 あの子の所有権は、王位継承戦よりも価値がある。


「奇遇だな。こっちも目的はおんなじだよ――」


「暴力は最終手段です。良ければ、別の方法で決めませんか?」


 似たような展開が繰り返され、アミが話を転がしていく。


 どこまで知ってるか知らないが、向こうにも価値があるらしい。


(ジェノは今のところフリーと読み、交渉に持ち込んだ。……冷静だね)


 状況を察し、密かに主導権を握ろうとするアミの手腕。 


 さすがは棟梁といったところ。敵ながら光るものがあった。


「勝負の内容を決めていいなら、構わないよ」


 マルタは話の先を読み、先手を打つ。


 すでに、ジェノの争奪戦は始まっている。


 不利な条件を出されるわけにはいかなかった。


「あ? 勝手に決めていいわけ――」


「構いません。そちらが条件を破らない縛りを結ぶなら」


 アミはラウラをスルーし、話を煮詰める。


 危惧しているのは、約束を破られたケース。


 勝負に便乗して、ジェノが奪われるパターン。


 最悪の可能性を先んじて潰してるって感じだね。


「ああ、いいさ。乗ってやる。こう見えて、ルールは重んじるタイプでね」


 思ったよりも抜け目がない。


 相手にとって不足はなさそうだ。

 

「……もういい。勝手にしろ」

 

「……では、勝負の内容をお願いします」


 ラウラはアミは合意し、話のバトンは渡される。


 内容は決めてある。互いに公平でやりがいのあるもの。


「参加人数は互いに二人まで。第三回廊区にある扉を攻略した数を競うゲーム。数の多かった方がジェノを得るって、シンプルなルールさ。もちろん、勝負を反故にすれば、意思の力を生涯失うデメリットをかける。文句はないかい?」


 マルタは淡々とルールを告げる。


 すると、二人の目が輝いたように見えた。


 聞き返すまでもない。どうせ、答えは決まってる。


「上等だ。やってやらぁ!」


「その勝負、乗らせていただきます」


 ここに勝負は成立し、ジェノ争奪戦は始まった。

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