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多田氷雨の作品集

君と、さよならを。

作者: 多田氷雨



恋をした。


初めて恋をした。


君に、恋をした。


初めて告白して、君は笑顔で「いいよ」って言ってくれて。


とても、嬉しかった。




君とは、いろんな所に行ったね。


手を繋いで、たくさんお話ししたね。


君といる時間が幸せで。


この時間はきっと、もっとずっと続くと思っていた。


おじいちゃんおばあちゃんになっても、ずっと続くって信じて疑わなかった。




でも、いつ頃からか僕と君の間にずれが生じて。


気づけば、手も繋がなくなっていた。


だんだん、会う時間が少なくなっていった。


すると君は、僕に言ってきた。



「もう私たち、さよならしましょ」














君の言葉を聴いた瞬間、時が一瞬止まった気がした。


言ってることが、しばらく理解できなかった。




僕は「待ってくれ」と言おうとした…けど、言えなかった。


君のこころが離れたのは、僕が君のことを大事にできなかったからだろう。


そう…思ったから。




僕は零れそうな涙を、体の奥に落とすと。



「…わかった、別れよう」



僕は、それだけ言った。


それだけしか…言えなかった。




帰り道。


君と並んで歩く。


無言。


足音が、やけに鼓膜に響く。


僕は足を止めて、君に願う。



「最後に…バス停まで手を繋ぎたい」



僕がそういうと、君は「…いいよ」と言った。


僕は君の手を握る。


君の手は、変わらずあったかくて。


そのあたたかさが、余計に僕のこころを締め付ける。


このあたたかい手を、もう二度と握れないと思うと…涙が零れそうになった。




僕と君は手を繋ぎながら、無言でバス停に向かった。


バス停についた瞬間、君の乗るバスがバス停に止まった。



『このバスは~番、~行きです』



ぷしゅーっと音をたてながら、バスの扉が開く。


バスに、僕たちと同じ学生やお年寄りが乗っていく。


僕と君は手を繋いだまま、その様子を静かに見守っていた。


あと少し。


もう少しだけ…君と手を繋いでいるこの時間が続けばいいのに。


本当は、このままずっと…


けど、そんな願いは叶うこと無く。


程なくして、そのバスに乗るのは君だけになった。




君は僕の手からゆっくりと手を離す。


指ひとつひとつほどくように…ゆっくりゆっくり。


君も僕と別れるのが辛かったりするのかな?


なんて、無意味なことを考えてしまう。


もう、君とは終わりなのに…




君は繋いでいた手をゆっくりとほどくと。


僕のところに視線を向けずに言った。



「…さよなら」



震えた声でそう言うと、君はバスに乗った。




ブロロロ…と音を立てながら。


バスは、僕を置き去りにして去っていく。


気づけば僕は、顔中をグシャグシャに濡らしていた。



「さよなら…ごめん…ありがとう」



掠れた僕の声が空気中に溶けていく。


君を乗せたバスは、鉄の塊たちの向こうに消えていった…









基本僕は、この世の素敵な女性に向けて恋の歌を歌うのが好きなのですが、たまにはこういう切ない失恋ソングを歌うのもいいかなと。

まあ…詩と呼べる代物か怪しいですが。


あなた様の刹那の時間で、拙作にお付き合いくださり感謝です。ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 僕は零れそうな涙を、体の奥に落とすと。 のところが好きです。 彼女と別れるまでは、ぐっと我慢して、彼女が見えなくなってから、顔中をグシャグシャに濡らすところが、いじらしいというか、男の子っ…
[一言] 男女の別れは互いの気持ちのすれ違いが生むものだと思うのですが、主人公の想いと彼女の想いの間にギャップがあるところを、バスに彼女が乗ってしまうところで表現されていて、画が目に浮かぶようでした。…
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