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タコかと思ったら火星人だった。

作者: 染口

始めて短編を書いてみましたが、難しくないですかね......

 春が終わりに差し掛かろうとしていた頃。

 趣味の釣りをしていた私は、タコを釣り上げた。

 だが、それはただのタコではなかった。


「いたたたっ」


 釣り針を外そうとしたその時、ハッキリと痛がる声を漏らしたのである。


 

 

「ホントに火星人じゃないの?」

「違いますってば。私はれっきとしたタコです。妙な研究の被検体にされて、喋れるようになってしまっただけで……」

「ふーん」


 喋るタコを釣り上げてから数日が経った。

 放っておくわけにもいかず、彼は私の家で居候(いそうろう)をさせている。


「ちょっと、少なくとも私の前でたこ焼きを食べるのはやめてくれませんか? 目の前で食べられると複雑な気分です」

「嫌なんだ。じゃあやっぱりタコなんだね」

「さっきからそう言ってるじゃないですか」


 たこ焼きを頬張る私を睨み付けるタコは、何やら本を読んでいた。

 チラリと表紙を覗き見ると、『宇宙に広がる惑星たち』と大きな文字で書かれている。

 小さい頃、親に買ってもらった本だ。


「宇宙、興味あるの?」

「そうですね。移住するならどこにしようかと」

「移住するの!?」


 タコが発したワードに気を取られ、熱々のままたこ焼きを口に放り込んでしまう。

 咳き込む私を心配する様子もなく、タコは淡々と話を続けた。


「喋るタコなんて、また変な実験台にされるのがオチですから。知性があっても対等に扱ってくれると思えません。下手に知性を得てしまったので、元の生活に戻るのも気が進みませんし」

「釣られたら、こいつみたいにたこ焼きにされちゃうかもしれないしね」

「だからそれ食べるのやめてくださいよ」


 タコの言葉を無視して全てのたこ焼きを食べ終わった私は、ごみを片付けつつ話を再開させる。


「それこそ、火星へ行くのはどう?」

「火星、ですか」


 私の提案を聞いたタコは、少しだけ考えるように固まった。

 火星は頑張れば人類が住める環境であるという話をどこかで聞いた気がする。

 冗談半分、真剣半分といったところだ。


「実は、一番可能性があるのは火星かなと思っていました。寒いのは苦手ですが、一番気温の高い地域だと何とか生きられる気温になるみたいで。それに、定期的に地球から探査機が送られているので、そのロケットに乗れば行くことができますし」

 

 冗談半分だった私とは違い、タコは本当に火星移住を考えていたようだ。

 火星が最も移住先に適している理由を熱弁するタコの姿はまるで、旅行を計画する人のような高揚感をにじみ出していた。

 そんな彼を見ていると、なんだか私まで嬉しくなってくる。


「いいじゃん! 火星、行こう!」


 こうして、タコの火星移住計画が始まった。




 地球から火星への探査機が飛ばされる日を特定し、火星でタコが持続的に生活するための用意も完璧。

 そして、探査機の発射される日が訪れた。


「ここらへんでいっか」

 

 発射場の近くまで来た私は、原付のエンジンを止めてヘルメットを脱ぐ。

 背負っていたビニール製の水槽をサドルに降ろすと、そこには()()()タコがいた。


「本当、ありがとうございました」


 私の家で居候をしていたタコとは違う方のタコが礼を述べる。

 人間から見ると違いがまるで分からないが、声色からしてメスのタコらしい。

 こいつも同じように実験台にされていたが、オスが私に釣られてから1人で隠れ住んでいたのだという。


新婚旅行(ハネムーン)ってやつ?」

「まあ……半分そんな感じですね。もしかしたら子供を授かって、子孫が反映していくかもしれません」

「じゃ、ホントの火星人になるわけだ」


 私の言葉に対するタコの反応は、どこか照れくさそうだった。

 今まで生意気だったことを思い出して少しムカついたが、不安いっぱいで行くよりは良いだろう。今回は特別に許してやることにした。

 小さな荷物を背負ったタコ2匹は、いよいよ発射場に向かい始める。

 

「今までありがとうございました! あなたの事はきっと忘れません!」

「私もだよ! 元気でね!」


 そうして手を振り合ったのが、私達最後のやり取りとなった。

 タコ達の姿が見えなくなるまで見送った後、原付のヘルメットを被ってエンジンをかけ、帰路につく。

 馴染みのたこ焼き屋でたこ焼きを買った後、家に帰った。


「ただいま~……って」


 玄関のドアを開けて元気よく声を出した後、タコが部屋に居ないことを思い出す。

 タコが来る前も同じ光景だったはずなのに、少しだけ部屋が暗く感じた。

 

 まあいい。

 手を洗ってからベッドに腰かけ、テレビを点ける。

 何度かチャンネルを変更した後、ロケット打ち上げのニュースに辿り着いた。


 タコの話が出ていないという事は、彼らは気付かれずに乗れたんだろう。

 良かった。


 安心した所で、買ってきたたこ焼きを開けて食べ始める。

 文句を言ってくるタコもいないので楽な気分だ。


 だが、何故だろう。


 ソースはたっぷり塗られているはずなのに、あんまり味が感じられなかった。

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