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「守黙抱冲」

 父親が死んだ時、遺品の整理をしていたら、「守黙抱冲」という言葉がいたるところに書かれているのを見つけた。父がノートや手帳に大きく、小さく、万年筆で書いたものもあれば、私の祖父が署名入で「書」として毛筆で書いたものも見つかった。


 私はこんな言葉を今まで見たことも聞いたこともなかった。また、父親から聞かされた覚えもない。他の兄弟も知らないと言うし、なんと、母親さえも知らないと言う。


 一体どういうことなのか。

「守黙抱冲」は「しゅもくほうちゅう」と読むと思われる。色々調べてみたが、はっきりしたことは分からない。ただ「守黙」は

『黙然無言の境地こそ最高とする禅語』であると分かった。

 しかし「抱冲」がよく分からない。

 冲という字は『沖合おきあい』の意味と同時に『(むな)しい』とか『(うつ)ろな状態』という意味もあるようで、ここから推測すれば、

「虚(あるいは空)を抱き、じっと黙する」ということにでもなるのだろうか。やはりどこか禅の匂いを感じる。しかし、私の家は特別禅に関係した家系でもない。どこかでこの言葉を聞いて、良い言葉だと、祖先が書き残したのかも知れないと想像するだけである。


 精神科医の中井久夫氏が書いたものの中に、こういう一文がある。

『家族にはサンクチュアリー(聖域)とでもいうべき、他人の参入をゆるさない部分があるようだ。「あらゆる家の戸棚には骸骨が一つかくれている」というイギリスのことわざはこの辺の機微を指しているのかもしれない』(「家族の表象」――「岩波講座 精神の科学7」P.89)


 言葉ではうまく説明できない何かが、それぞれの家には雰囲気として、あるいは文化としてあるのだ、と単純だが私なりに理解した。


 我が家の「戸棚の骸骨」はもしかしたら、「守黙抱冲」という言葉に隠されているのか。そして、それは代々伝わっていくものなのか、あるいは伝えていくべきものなのか。我が家の()()()()「家訓」なのか。もしも、そうであるなら、私も子ども達にこの言葉を(そっ)と残しておかなければならない。ただ、はっきり自信を持って引き継げないのは少々気が引けるけれども……。


(2007年02月20日 mixiから)



(追記)

今、何かと話題になっているChatGPTに「守黙抱冲」の意味を尋ねてみた。


ChatGPT:「守黙抱冲」という言葉は、一般的には「黙って物事を受け止め、冷静に対処すること」という意味で使われます。


「守黙」は黙っていること、何も言わないことを表し、「抱冲」は冷静に物事を考え、感情的にならずに対処することを意味します。


この言葉は、主に困難な状況や問題に直面したときに、冷静沈着さを失わずに対処することの重要性を表しています。


――と、サラッと(orシラッと)答えてくれた。分かりやすい言葉である。あながちまるきり方向違いの答えでもなさそうだ。でも、この言葉をそのまま信じる訳にもいかないなぁ。どこかずれている気がする。私のChatGPTの使い方が間違っているのだろう。

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