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試し書き

 私は「書痙しょけい」である。字を書くことに困難を感じる病気である。書痙にも色んな症状があるが、私の場合は鉛筆やボールペンなどを持って字を書こうとすると、指から手首にかけて筋肉が強張り、思うように字が書けなくなる。作家の星新一も書痙だったらしい。文章を書かなければならない職業だけに、その辛さが私にはよく分かる。

 今はパソコンという便利なものが出来て、文字を書く辛さから大幅に解放されたが、時には手書きで書かなければならないこともある。この時が何とも辛い。人に話してもあまり理解してもらえないのである。そんな病気があることを知らない人の方が多い。


 30代で発症したので、もう長いお付き合いである。発症当初は医療機関にも通い、鎮痙剤の服用や、筋電計を使って、目でその針の振れを見ながら、力の入れようをフィードバックする訓練も行ったが、結局治らなかった。仕事で字を書くことも多かったので、これには本当に苦悩した。星新一の気持ちが泣けるほど分かる。(昔はパソコンはおろか、ワープロもなかった)


 だから筆記用具は殊更こだわった。少しでも自分の手に馴染むものをと、色んな文房具を試してみた。筆記用具を買う時には、試し書きをする。売り場に置かれている試し書きの用紙に書くのである。前に書いた人のがよく残っているが、だいたいバネのようにグルグルとしたものが多い。中には「こんにちは」とか「住所の一部」とか「日付」とかもある。

 私はいつも「momon」と書いていた。「momon」とは……。昔々、心理学の本で、筆圧による性格検査をこの「momon」をいう字を使って行ったと読んだ記憶があったので、それを試し書きにしていたのである。


 しかし、この「momon」、ネット検索しても出て来ない。おかしいな、と自分でも自信を無くしていたのだが、友人(私と同じ大学の心理学専攻の同輩)に確認した所、それは「momon」ではなく「momom」だという指摘を受けた。あの体型による性格分類で有名なクレッチマーが考案した筆圧による性格検査であることも分かった。私の記憶も大したことはない。これまで試し書きで残したmomonも考えてみれば恥ずかしい。って、誰も解らないだろうけれど。

 もし今後、試し書きの用紙に「momom」という字を発見したら、それはおそらく私である。いや、これを読んだ人が真似をして書く可能性もあるな。まぁ、いいんだけれども。


(オリジナル)


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