抱きしめる人 抱きしめられる人
最近、人を抱きしめたとか、抱きしめられたことがありますか?
もしも、そう訊かれたら、「うーん」と唸るしかない。
……ないのだ。
そういうことって。
抱きしめたことも、抱きしめられたこともない。
悲しいことだ。
人ではなく、ぬいぐるみだってない。
いや、布団くらいはあるかな。
悲しいことだ。
あるサイトにこんな記事が載っていた。
・ 世界中で人々を抱きしめて癒す「抱きしめる聖者」と呼ばれる人物がいる。
・ 国連に招かれて講演を行い、平和に貢献する賞を数々受賞し、アメリカのCBSテレビでは「世界中でもっとも影響力のあるスピリチュアル・リーダーのひとり」としてローマ法王やダライ・ラマと並んで紹介されている。
・ 無条件の愛をもって抱きしめる。
・ 彼女はシュリー・マーター・アムリターナンダマイー・デーヴィという59歳の女性で、世界中で「アンマ(お母さん)」と呼ばれている。
・ これまで3200万人以上の人を抱きしめたと言われている。(ガジェット通信)
人はなぜ抱きしめられたいのか?
心が傷つけられて、立ち直れないとき。
人が信じられなくなり、誰を信頼していいのかわからなくなったとき。
言いようのない不安が襲い、生きていく自信を失ったとき。
そういうとき、安心できる大きな胸に身体を預け、ただ抱きしめられたら、どんなに救われることか。
無条件で愛を与えてくれる。
言葉はいらない。
小さな戦く子どもとなって、母親の胸に抱きしめられればいい。
父親や恋人の胸に守られるように、我を忘れて抱きすくめられればいい。
そうすれば、冬の凍った大地を溶かす春の太陽みたいに何かが自分を温めてくれ、「無条件の愛」に包まれることよって本来の自分を取り戻すことができる、そんな気がするのだろう。
昨日、夜の9時くらいに京都四条の橋の上で、一人の男がカンペのようなスケッチブックを持って立っているのを見かけた。
カンペには、
『思いきり抱きしめます 一回200円』と書かれてある。
スラリとした若い男だった。
イケメンかどうかはわからないが、道行く人にそのカンペを両手で挙げて見せ、じっと立っている。
橋を渡る人は、そんな男を横目でチラッと見てやり過ごしていく。
一回200円で、思いきり抱きしめてもらえる。
うーん。
誰にも抱きしめてもらえない淋しい人もいるんだろう。
まったくの他人でも、一瞬強く抱きしめられることによって、何かが変わるかも知れない。
そういう気持ちになる人もいるかもしれない。
しかしなぁ……。
一回200円。
逆に、愛を求め、さびしさを紛らわす代償にしては、あまりにもわびしい気がするのは私だけか。
一回1,000円くらいにした方が値打ちがあるのではないかと思ったりして。
(2013年02月03日 mixiから)
この話を書いていて、昔、障がい者の介護ヘルパーをしていた人が作った川柳を思い出した。その人は視力障害の女性を担当していたのである。女性には一人のまだ小さい女の子がいた。ある時、その子に「季節の中でどれが好き?」と訊いたところ、間を置かず、「冬!」と答えた。「どうして?」ともう一度訊けば、「だって、抱きしめてもらえるもん」と言ったという。
その女の子も母親に抱きしめられることに、親の愛を感じ、安心感を得たのだろうと、ヘルパーをしていた人は話していた。
抱きしめてもらいたいから冬が好き
これが、その時ふと口をついて出た川柳であったという。
化粧品のCMにでも出て来そうな一句である。




