表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/26

色鉛筆

小学校の頃、48色の色鉛筆が欲しかった。

その当時は48色の色鉛筆なんて、お金持ちの子どもでもほとんど持っていなかった。

それで何かを描きたかった訳ではない。

また、私はそんなに画が上手(うま)かった訳でもない。

ただ、単純に綺麗なものに憧れていた。

先を短く切りそろえられ、薄いボックスに並べられた生真面目な48本の色鉛筆たち。

淡く明るい色から暗く沈んだ色まで、美しいグラデーションは見ているだけで心が和んだ。

「象牙色」なんてあるんだ!

「象牙色」という言葉だけで豪華な感じがした。

眺めているだけでいい。

それを自分の手元に置いておきたかった。


当時、家の近所に同じクラスのS君という男がいた。

スポーツができて男前。

当然女の子にも人気があった。

彼はまた同時に美術のセンスも持ち合わせていた。

今でもあるのだろうか? 昔、小学校の社会の時間で白地図塗りというのがあった。

色鉛筆で塗るのだが、彼は見事な色使いで様々な国を美しく塗り分けた。

彼は国境を濃く描き、その国の中を同じ色で淡く塗った。

その濃淡はまさに芸術的であった。

別に48色の色鉛筆を持っていた訳ではない。

私達と同じ12色の平凡な色鉛筆なのだが、彼の手にかかると12色が48色以上の色となって、白地図が一枚の絵となって現れるのだ。

誰もが彼の塗った白地図を欲しがった。

宿題に白地図が出ると、翌朝女の子達は「見せて、見せて」と彼の周りに群がった。

みんなの期待に背かず、彼の描いた白地図はただ単なる地図ではなかった。

そこにはヨーロッパの国々がそれぞれ鮮やかな色で囲まれ、独立し、息づいて見えた。しかも周りの国々とバランスよく調和していた。

先生はいつも彼の白地図を褒めた。

S君のように塗ると綺麗ですよと。


S君が死んだのは20歳の時だった。

彼は高校を卒業し、工事師として電気会社で働いていた。

ある時、電気工事の現場で高圧電流に打たれ即死したのだ。

それはほんの一瞬のことであったらしい。

彼の身体を高圧電流が貫いた。

婚約者がいたという話を聞いた。

私は知らないが、きっと素敵な女性だったんだろうなと想像した。

そんな彼女を残して20歳の若さでこの世を去った。

おそらく天に嫉妬されたのだろう。そう思う。

色鉛筆を見るたび彼のことを思い出す。


白地図というものが今でもあるのなら、もう一度挑戦してみようか。

今なら48色の色鉛筆を買うことはできる。


(2007年01月31日 mixiから)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  “色鉛筆”を読んで自分の小学校時代を思い出しました。しろうさんと同じく色鉛筆を使って上手に絵を描く女の子がいて、使っていたのがコーリン。当時三菱鉛筆の12色(黄色の缶ケース?)が主流でし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ