ふしぎなマスク
はるくんは、学校に行く途中で、マスクをしていないことに気がつきました。
「あっ、どうしよう」
こまっていると、めがねのおばあちゃんがやってきて、言いました。
「マスク忘れたのかい? このマスクあげるよ」
「ありがとう」
そのとき、ポケットからマスクが落ちました。
「あれっ、ぼくポケットに入れてたんだ!」
マスクを両手にもって立っていたら、げんちゃんが、
「おい、マスク忘れたんだよ! 1個くれ!」
そう言うと、めがねのおばあちゃんがくれた方のマスクを取っていきました。
げんちゃんは、意地悪で口が悪い乱暴な子なのです。
はるくんが、ことわれるはずもなく、マスクはげんちゃんに取られてしまいました。
教室につくと、げんちゃんが、
「おはようございます」
と、めずらしくていねいにあいさつしました。
みんな、びっくり。
「なんか、げんちゃん、いつもとちがうよね」
「うん、どうしたんだろ」
げんちゃんも首をかしげています。
げんちゃんは、授業中もおとなしくて、いつもなら先生にちゃちゃを入れたりするのに、しずかにしています。
先生が、
「今日のげんちゃん、しっかりお話聞けててえらいね」
と、ほめています。
ゆなちゃんにも、
「ちょっと消しゴム貸してよ」
と、やさしい言葉で言うげんちゃん。
(あれー? いつもなら無理やり取り上げて泣かしてるのになぁ)
ゆなちゃんも、ちょっとびっくりしながら、
「いいよ。貸してあげる」
と、消しゴムをわたしています。
(今日のげんちゃんは、全然意地悪じゃない! もしかして、あのマスクのおかげ?)
休み時間には、げんちゃんのことを嫌っていた子も、げんちゃんのまわりに集まってきました。
げんちゃんも、にこにこ笑って楽しそうです。
学校から帰るときは、マスクをはずしてもいいので、マスクをはずしたげんちゃんが走ってきました。
「おい、はると! おれ今日なんか変だったんだよ。おまえのマスクのせいか?」
「うーん、ぼくも、よくわかんない」
「なんだと、このや……」
と言いかけて、げんちゃんは、
「おれ、今日の自分、なんか気持ちよかったんだ。これからは意地悪しないよ。今までごめんな」
と言うと、
「バイバイ」
と手をふって帰っていきました。