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#8 『俺と皆と勉強会終わりその後』



「待てよ、刹那。」


ようやく追いつき、刹那の腕を掴む。

それに対して、刹那はすぐに俺の手を払いのけて

また走り出した。


「刹那っ!」


呼びかけるが、刹那は止まる気配がない。

どうしたものか…。


「バーカバーカ!!!! 一星のアホッ!」


帰ってきた言葉はそんなだった。

ひ、人がこんなに悩みながら全力疾走しているというのに

この幼馴染は……。


「ばかやろぉぉぉぉぉぉぉーーーーー!!!!!」


「ちょっ!?」


刹那、いや、名前の方じゃなくて、瞬間の意味で。

刹那が振り返り、俺にストレートを決め込もうとする。

鼻先をかすめたが、咄嗟によけることができた。


こ、殺す気か、おい…。


「あ、あぶねぇな!」

「ばかっ! 一星のバカ!」

「な、なんでそんなに怒ってるんだよ……。」

「ふんっ!」


ったく…。

でも、……なんとなく安心した。

このまま走り続けていたら、体力的に負けていたかもしれないし。


「一星の鈍感!」

「はぁ、最近それ言われるんだが、なんでだろうな。」

「知らないわよっ!」


ふん、っとそっぽを向く刹那。

なにしにきたんだっけ、俺。

あ、思い出した。


「っと、さっきはごめん。

 でも、俺、刹那がなんで怒ったのかわからなかったんだけれど……。」

「はぁ、もういいわよ。 普段の事考えれば

 さっきの方がマシって思えるし……。」


凄いあきらめようであった。

え? 俺、日常的に刹那怒らせてるの?


「その、俺、わからないからさ、言ってくれ。

 直せるところなら、直すし。」

「…。 (そんなつもりじゃ、ないんだけどな…)。」

「え?」


声が小さすぎて、今聞こえなかった。

なんて?


「ううん。 一星はそのままでいいよ。

 鋭い一星…。 それはそれで問題ありだし。」

「な、なんだ、それ……。 でも、俺いつも怒らせてるみたいだし…。」

「私が、勝手に怒っている部分もあるし、

 お互いさま! ほら、行こう!」


刹那は、家の方向へと歩き出した。


「もう、怒ってないのか?」

「凄く忘れていたけど、今、そんな暇ないと思って……。」


ズーンと沈む刹那。

あ、そういえば、当初の予定は勉強だったな。

”刹那”の…。


「あー、あー、あー。」

「うるさいわね! 許すから、その…、みっちりお願いします!」


礼儀正しく頭で下げられちゃったり…。

ったく……。


「了解!」


そんなことされたら、こっちも頑張るしかなくなるな。

刹那と急いで戻って、皆にはとりあえず許してもらえた。

とだけ伝えると、お勉強会という名の

刹那特訓が始まった。



「性善説を説いたのは?」

「えーと、孟子?」


「エリクソンといえば?」

「アイデンティティの確立!」


「タンパク質を構成するアミノ酸の種類は?」

「20種類!」


「これ、だーれだ!」

「ぷ、プラトン?」


「この計算の答えは?」

「√3!」


「だっはー」



<カンカンカン!>


みたいな、ボクシングなどで使われるあの音が

聞こえたような気がした。


あれから夜にかけて刹那の特訓は続いた。

まぁ、うん。 頑張った方だと思うよ。


「帰ったら、また姉勉強させる!」


と最後に残して姉妹帰宅。


「海里、お前はどうするんだ?」

「んー、そうだねぇ、一星の家にでも泊ろうかなぁ。」

「構わないけど、明日土曜日だし。」


で、こいつは残留と。


「じゃあ、私もそろそろ。」


俺が海里と話していると、そそくさと音姫も帰宅準備を始めていた。


「あ、音姫。 送るよ。」

「いつも悪いよ~。」

「もう暗いし、付き合わせちゃったの俺等の方だしさ。」

「私が好きで付き合ってたから全然。 それに、塚本くんもいるみたいだし。」

「あ、俺、どうせコンビニ寄るから、ついでに行こうよ。」

「そうなの?」


海里の発言に音姫はなぜか俺を見る。


「家に泊るときは、いつもコンビニ行くからね。」


と、俺もそれに合わせておいた。


「(一星、貸し一つな?)」

「(は? なんのだよ。)」

「(いいから、いいから。)」


ニヤニヤしながら海里も外に出る準備をしていた。

なんだ、こいつ……。


「んじゃ、行きますか。」

「お邪魔しました。」

「父さん、いってきまーす。」


三者三様の発言を終えたところで、音姫の家へと向かう。

今思えば、俺結構音姫の家 (の前)までは行ってるよな。

中には入ったことないけど。


「今度、私の家にも遊びに来てね。」


クスクスと笑いながら、音姫が唐突にそんなことを言いだす。

もしや、俺、またやっちまったのか……。


「いっくんって、本当に面白いね~。」


この癖、なんとかならんものか……。

朱希奈曰くひとりモノローグを口にする一星特有の癖

とやらは意外にも俺の頭を悩ませている。


「お前、実はウサギなのか?」

「は?」


あー、ひとり言=寂しい=ウサギ 

ね。

違うわ!


「思ってることが口に出ちゃうんだよね?」

「うっ…。」


そんな子供をたしなめるように言わなくても…。


「一星は昔からそうだもんなぁ。」

「いや、お前とは中学時代からの付き合いのはずだが!」

「その中学時代からお前は変わってない!」


断言するなよ、俺だって少しは……。


「断言じゃないぞ、お前を観察しての結果を述べたまでだ。」

「またか、俺っ!」


素直にショックを受けた。

思っていることを口に出してしまうこの癖はなんとかならないものか…。

しかも、いつも言っているわけじゃないことを

考えると、もうデメリットしかない癖になっている。

会話がスムーズなのは大変よろしいけど!


「ふふっ。 私、いっくんと塚本くんの会話、

 テンポ感あって好きだよ。」


「音姫……。」


それは、褒められているのだろうか……?


「褒めているよ~。」

「阿―――――!!!!」


泥沼だった。 脱出不可能であった。

しかも、ちょうど良い感じにこの癖が発動している。

俺、そろそろひとり言しゃべる変な奴だ。


「すでに、とでも言っておこうか。」


突如、俺の肩に置かれる手。

振り向けば、悪友が首を横に振っていた。

世間一般的で言う「手遅れ」

を表す動作だ。


「俺、そんな世間一般的な…「繰り返さなくていいぞ、友よ。」

「阿――――――――――!!!!!」


泣きたい。 今、とても泣きたい。

というか、むしろ消えてしまいたい。

切実にそう思った。


こんなやりとりをしていると、あっという間に音姫の家へとたどり着いた。


「送ってくれてありがとう。

 今日も楽しかったよ!」

「お褒めいただき光栄です。」


海里が冗談めかしてお辞儀をしている。

それにまた笑う音姫。


「土日テスト勉強していると思うから

 また暇があったら皆でやろうか。」


俺にしては珍しく、友好的なことを言ってしまったと、

言った後になって気づく。


「お邪魔じゃなければよろしくお願いします。」

「逆に音姫の勉強の邪魔になっていないか心配だけどね。」


聞けば、音姫の前の学校は今の学校よりも授業が進んでいるとのことだが

それでも、あいつ(刹那)の勉強会に付き合わせるのは

音姫に申し訳ない気がした。


「もう! 私は好きで刹那さんに付き合ってるんだから、

 いっくんは心配性だよ!」

「そ、そうか?」


俺、心配性なの? いや、そんなこと

自分で微塵も思ったことないんだが…。


「そうだよ。 だから、またご一緒させてください。」

「うん、わかった。 それじゃあまたな!」

「音姫ちゃん、バイバイ!」

「二人とも、気をつけて帰ってね。」


そして、音姫と別れた。


辺りは真っ暗の中、ヤロー二人。


「『いっくんは心配性だよ!』 だってよ。」

「な、なんだよ…。」


そんな中、

海里がいきなり、音姫の真似? (限りなく似ていない)

をしながら俺に話しかけてきた。 

きもい。


「でも、安心したよ。 恋愛苦手~とか経験ない~とか言いながら、

 ちゃーんと、好きな奴のこと考えてんだな。」

「は?」

「いや、は? はないだろう。」


「いいこと言ってたよな、俺…。」

と、なぜか、俺の反応を見ていきなり落ち込み始めた海里。


「恋愛面で好きな奴なんて、俺にはいないよ。」

「嘘ばっかり~。 さいきん~、音姫ちゃんといい感じじゃ~ん。」


う、うぜぇ、なんだこのしゃべり方。


「いや、いい感じも何も、普通に友達だし…。」

「いいこと! 男女間の友情なんてないわっ!」

「お前と、刹那、朱希奈。 俺と、刹那、朱希奈のような感じじゃん?」

「……………。」


途端、海里が一瞬、いたたまれない顔をした。

なんでだよ。


「はぁ、まぁ、なんだ。 凄い不憫な光景を目の当たりにした。

 ただ、それだけだ、うん。」


なんかすごい残念がられた。

なんか違っていたか?


「まぁ、俺にしてみれば、刹那たちは幼馴染だしな。

 今更恋愛なんてお互いに思わないだろ。」

「………。 お前、それ琴吹の前で言うなよ?」

「ん? なんでだ?」

「なんでもだ。」


さっきから、海里のやつどうしたんだ?


「まぁ! とにかく! 俺は悪友の恋愛進展は応援するぜ?」

「だから、そもそも恋愛してないって!」


そんな会話をしながら、コンビニによった。



「843円になります。」

「あれ? 俺、こんなに買ったっけ?」


そのあと、海里がちょっと高い、チョコレートの小さい箱っぽいやつを

俺の買い物かごに忍ばせていたのは、帰宅してから気付いたのであった。




サブで執筆している『あの星に願う天』は

とりあえず、ゆるりと更新していきたいと思います。


星天シリーズ完結まで頑張りたいですね。


少し余裕がある今、更新していきたいです。

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