#6 『元天文部と彼女と天体観測』
「ふわぁ……。」
もう、登りなれた『天の坂』を欠伸をしながら歩く。
昨日は、『スターday』を読んでいたため寝不足気味だ。
俺の読み方はいたって普通。
一度読んでからもう一度読み直す。 それだけなのだが…。
昨日は集中してしまい、気がつけば時刻は深夜を回っており
今、思い出すと4度読みをしてしまったのだ。
うぅ…。 体がだるい…。
「寝むそうね、星」
「あ~、朱希奈か。 おはよ」
欠伸を見られてしまったのか、うしろからくる朱希奈は
「ちゃんと寝ろよ」という目で訴えかけてくる。
いや、わかってるよ。 でも、なんとなくやってしまっただけなんだよ。 うん。
「どうせ、『スターday』を夢中になって読んでたら
気がつけば深夜まわってたとかいうオチでしょ?」
「合ってはいるが、オチってなんだ、オチって!」
というか、なんでわかったんだ。 朱希奈…。 まさか監視されている!?
「誤解しないでよ。 私に盗聴とか盗撮の趣味はないから。
星が寝不足の原因って大体、星関連じゃん。
それに『スターday』が発売されてたからこんなのすぐにわかるって」
「い、いや…。 その驚異的洞察力とか観察力とか感知能力とかを
もう少しいい方向に使用できないのか?」
一歩間違えば犯罪に使えるぞ、この能力。
「ん~。 でも、これって身近にいる星とか姉とか海さんくらいしか
使えないと思うよ? ある程度相手の思考とか趣味とか
わかってないと、観察してもこういう答え、出せないと思うし」
「なぜ、そこまで詳しいのか今度じっくり話し合ってみたいものだ」
「私の周りの人間って……………。 皆、単純よね……」
嘆息しながら明後日の方向を向き意味深に言う朱希奈。
悪かったな、単純で。
「あ、そういえばさ。 今日も天体観測するんだけど…」
「うん、夜は暇だよ。」
「そっか。 今日は新しい娘が来るから」
「あ~……。 3年D組の転校生で天河音姫さんだっけ?」
「あ…うん」
なんで知ってるんだコイツ……。 口では盗聴や盗撮してないといっても
やっぱり……。
「何よ、その目……。 いっておくけど、海さんと姉からの情報だから」
「ああ、さようですか」
「まったく、星は私のことどういう目で見てるのかしらね」
怖い人。 敵に回したくない人。 勝てない人。 etc...。
まぁ、ここは…………。
「御想像にお任せしますわ」
「ふ~ん。 まぁ、いいわ。 直接会うのは今夜初めてだと思うし」
「ん、じゃそういうことでまたあとで」
「はいは~い」
朱希奈と別れて教室へ行く。
少し海里達と話をしてからHRが始まり、
気がつくと授業になっていた。
「(なぁ、一星。 今度また合コンに行かね?)」
「(行かない。 もうこりごりだよ。 それに今夜は天体観測って
朝、言っただろ)」
「(何も今夜って言ってないさ。 で? どう?)」
「(全面的にパス。 ああいうの好きじゃない)」
「(ちぇ~。 まぁ、いいか。)」
口を尖らせた後、前を向き直る海里。
アイツの脳内は合コンの事しかないのか? ったく……。
隣を見ると、なぜか安署のため息をもらしている刹那がいた。
……なぜだ?
「星~!」
「はいはい、今行きますって」
いつものごとく、朱希奈が迎えに来て集合場所へと向かう。
のだが、今日は音姫の家に寄ってから向かった。
しばらく歩いていつもの場所へとたどり着いた。
「おぉ~、音姫ちゃん、いらっしゃい」
現地には海里がもう寝そべっていた。
「おじゃましま~す」
「じゃあ、自称天体観測としゃれこみますか~」
俺と朱希奈が寝転がるのを見て音姫も寝転がった。
それを合図に話し始める。
「音姫さん、改めて琴吹刹那の妹の琴吹朱希奈です。
今はあの学校で天文部部長やってます。 よろしくお願いします」
朱希奈は思い出したように、起きて音姫にペコリと頭を下げた。
「わわ、こちらこそ。 転校生の天河音姫です。
よろしくね」
それにつられて、音姫も起きて頭を下げた。
うむ、やっぱり大丈夫だ。
「朱希ちゃん……。 でいいかな?」
「構いませんよ。 ん~、じゃあ音姫さんは……。
音さんかな」
「うん、それでいいよ」
「「・・・・・・・・」」
「(なぁ、一星。 こいつら仲良くなるの早くね?)」
「(うむ、姉を見ているからちょっと不思議な気持ちだな)」
その後、音姫と朱希奈は楽しく会話を進めていた。
フィーリングが合うのだろうな。
仲良いことは良いことだ。
「そういえば、音姫ちゃんがいたところじゃ天体観測って
どんなことしてたんだ?」
「え~っと、そもそもわたしがいたのは都心部だから
星っていう星が見えなかったの…。
だから、夏の合宿とか冬の合宿とかじゃないとちゃんとした
天体観測はできなかったんだ~」
「でも、できたらできたで大変ですよ?
レポートとかレポートとかレポートとか…………」
朱希奈はため息をこぼしていた。
そういえば、昨日はレポート処理で大変だったって言ってたな。
御苦労さん。
「でも、この天川町は違うんだね。 わたしここ好きだな~」
「まぁ、見てて飽きないところではあるよね。 田舎だけど」
「うん、星もきれいだしね」
「意外とかわい娘ちゃんいるしな」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
3人して海里を腐ったような眼で見つめる。
「なんだよ、皆して~」
うむ、この対応が一番らしいな。
「海さん、空気読んでよ。 音さんに失礼でしょ」
「い、いや。 わたしは別に気にしないけど…。
この流れでその発言は………………」
「空気を読めよ、お前」
「ええい! なんだよ、お前ら!!!!
そ、それより! 俺がこんな性格じゃなかったら
お前ら二人は出会わなかったかもしれないんだぞ!!!!」
まぁ、それを言われると痛いけど、
明らかに今のは軽率すぎる発言だろ…。
「それは、わかってるけど………」
若干一名、取り込まれそうなやつがいるけどな。
「音姫。 コイツの言う事にいちいち付き合ってたらキリないって」
「なにおー!」
「はいはい、終わり終わり。 海さんも星もうるさい。」
「「は~い……」」
この、眼力は姉譲りなのか……。 はたまた、父親譲りなのか…。
どちらともいえないが、俺たち2人は身の危険を察知したので
しぶしぶ引き下がることにする。
「音さん、今度買い物行きません? この町のいいお店知ってますよ?」
「わ~、ほんと? よろしくね、朱希ちゃん」
二人が話しこんでしまったのでヤロー同士で話すことになる。
先に話し始めたのは海里の方からだった。
「朱希ちゃんは琴吹と大違いだな。」
「ん~、そうだな。」
確かに尖ったような感じはしない。
だからといって、全て心を開いてはいないようだ。
朱希奈は昔から壁を作るクセがあるから、まだ直ってないんだろう。
「クール系もなかなかだな。」
「お前の視点はちょっとズレてる気がするが…。
まぁ、ポーカーフェイスってのは尊敬するよ」
何事にも動じないし、どんな状況でも的確な物事の判断ができるってのは
スゴイことだと思うしな。
「でも、お前は音姫ちゃんだろ?」
「ん~? そういう目線で人を見ないからどうだかわからん。」
確かに可愛いとは思う。 そこはわかる。
けど、なんだか海里のような目線で見ちゃいけないような気がする。
なんたって、ベガだし、お姫様だし……。 まぁ、それは置いておいたとしても
なんとなく、俺のような中途半端な男が音姫をどうとか言えない気がするから…。
「お前、彼女できないぞ~?」
「そうだな。 でも、俺には高嶺の花だよ。
いや、もしかしたら眺めることすら許されないかもしれないんだから」
「可愛いのはわかるけどさ、ちょっと過大評価しすぎじゃないか?」
「い~や、ちょっと話せばわかるよ。 俺とはつり合わない」
音姫を見る。 楽しく朱希奈と話している。 そこにはいつもの笑顔があった。
あんな笑顔を俺は作れないと思うしな。
「ふ~ん」
「というか、海里のほうこそどうなんだよ。
お前、フラフラして特定の人と付き合わないじゃん……」
「そうだな。 キスもまだだしな。」
「え? そうなのか? てっきりもう済ましてるものかと………」
意外な回答に驚く。 海里ほどの奴なら女の一人や二人いてもおかしくないのにな。
「あのなぁ…。 俺はこう見えて一途なんだぞ?」
「・・・・・」
え? 海里が一途? あの海里が?
「海さん、冗談はその軽率な行動だけにしようよ」
聞き捨てならなかったのか、朱希奈が音姫との会話を中断して
こちらに入ってきた。
「朱希ちゃんヒドイ! 俺はいたって本気なのに!!!!
って! 音姫ちゃんまで苦笑しながら俺を見るな~!」
「え、だって……。 その…」
「うん、俺もわかる。 お前と一途は月とすっぽん…。
いや、対極っていうか一生巡り会えないっていうか…」
「お前らひでぇな……。」
あれ? 海里が柄にもなく落ち込んでる。 って、なんで俺を睨むんだよ。
「悪い、悪かったよ。 お前は一途だ、 可愛い女の子を追いかけるその行動。
一途としか思えん。」
「ん~、まぁ、そういう点に関しては………」
「一途、って言うかもね」
「このぉ!」
「ってー! てか、なんで俺を殴るんだよ!」
いきなりの海里の拳に対応できず殴られる。
いてぇ……。
「うるさい! お前は俺に殴られる義務がある!」
「そんな、義務どこにあるんだよ…。 ったく、いてえな…」
「だ、大丈夫? いっくん!?」
「あ、うん。 大丈夫だけど…」
俺は海里を見る。 ……あれ?
「よし、スッキリしたもういいぞ。 下がってよし」
「いや、ワケわかんねーよ。 お前、何さまよ…」
「上様じゃ~!」
いつもの海里に戻っていた。 なんだったんださっきのパンチは…。
「よ~し、久しぶりにどっちが先に夏の大三角見つけられるか勝負だ!」
「み~っけ!」」
「「って、はやっ!?」」
海里が高らかに宣言したと同時に、隣にいた音姫が
右腕をあげる。 その指先には確かにデネブ・アルタイル・ベガが
形作る、夏の大三角があった。
「音さんはやいね...。 星、私たちのライバルが現れたよ」
「うむ、そうだな。 ここの先住民として負けるわけにはいかないな」
「お~い、俺は無視か~」
「「だって、海里(海さん)は相手にならないじゃん」」
「シドイ!!!! 今日の俺はアウェーか~!!!!!!!!」
何を叫んでいるのかわからないが、新手出現。
それも、手ごわい!
「へへへ~、星ならいっくんにも負けないよ?」
「よーし! 次は北極星だ!」
「「はい!!」」
朱希奈と音姫同時に指をさす。
というか、これってお題言った人不利だな……。
「海里、お前お題出してくれよ」
「しょーがねぇな。 貸し一つな」
「いや、ワケわか…「いて座をさがせー!」
「「はいっ!!」」
「・・・・・・。」
ヤロー……。
「これで、私2。 音さんが3で星がビリだね」
「まだだ! 次来い!」
「さそり座~」
「アレだ!」
やっと、1か……。
「ん~、じゃあ、オリオン座!」
「「「今見れないし(よ)」」」
「あっれ~?」
コイツちゃんとお題出す気あるのか?
「じゃあ、リゲル」
「「「それは、オリオン座の一部だろ(でしょ)!」」」
「お前ら、どんだけマニアなんだよ……」
「「「これは常識!」」」
「キメェー。」
3人して、笑い合う最中、海里だけ「俺、やっぱ今日アウェーな日なのね」
な~んて、呟いていた。 まぁ、たまにはいいだろ。
「さて、そろそろ時間だし解散しようか」
「ん、そうだね」
「とっても、楽しかったです」
うんうん、今日も楽しかった。 海里を除いてだけど…。
「次は、もっと星の勉強をしてこよう!
なんか、敗北感が…」
「天文部で唯一、天体全部覚えてないからね~。 海さんは」
「そんな、憐れむ目で見ないでくれ……」
今日も、そんなんで終わる。
楽しい天体観測が終わる。
「今日は楽しかったね」
海里は別の方向なので3人で夜道を歩く。
「ああ、久しぶりだけどな。 星あてクイズなんて」
前もやってたことはあったけど、こんなに白熱したのはなかった。
「これも、音さんがきてくれたからだね。 負けられないね星!」
「天体好きとしてな」
二人して意気込む。 俺も天体の本見直してみるかな。
「今日は誘ってくれてどうもありがと。 いっくん、朱希ちゃん」
音姫の家の前に着く。 今日はこれでおしまい。
「誘ったのは、星だけだよ。 でも、楽しかった~」
「あ、あの…。 また、誘ってもらってもいいかな?」
「うん、大歓迎。 じゃあ、また今度」
「うん、また今度! いっくん、朱希ちゃん。 バイバイ~」
手を振り、音姫の家を後にする。
「いい娘だね。 音さんて」
少し歩いて、朱希奈が口を開いた。
「うん、そうだな。」
それに頷く。
「狙ってるの~?」
「バ~カ、海里みたいなこと言ってるな」
でも、今日は本当に、本当に楽しかった。
こんな日が続けば、いいな………。
なんて、柄にもないことを思いつつ…。
朱希奈と別れ帰宅した。