#1 『悪友と幼馴染と教室で』
初夏。6月の割には気温が高く、蒸し暑くて気がめいりそうである…。
クラスの皆もそうなのか、廊下側に一斉非難したあと
下敷きや教科書、ノートの類で風を送っていたり、
何度も汗を拭いたりと…。 そんな動作を繰り返していた最中
不意に、前の席の悪友がくるりとうしろを向き俺を見据えてきた。
「あ~、あぢぃ……」
「んなことで話しかけてくるなよ………。
皆だって、暑いって言うの我慢してんだから」
「そんなこと言ってもねぇ…」
窓際最後尾。夏場では最悪な席に座る俺にどうしろというんだ。
と、問いかけそうになったが暑いのでやめる。
しかし、本当に暑い……。
「なんで、今日に限って体育休みの自習なんだよ……。ありえねぇ…」
机に突っ伏しながら黒板を見据える悪友、『塚本海里』は
黒板にでかでかと書かれている"自習"の文字を睨みつけながら文句を言う。
「本当なら今頃、風通しがいい体育館でバレーだもんなぁ…」
俺も多少ながらではあるが、文句の一つでも言いたくなる。
なんてたって理由が……。
「なんで、体育の先生今日おめでたなんだよ…。」
「生命の誕生に文句言っても仕方ないけどな……」
こう流すものの、やはり文句は言いたくなる。
あ~、あづい…。 軽く思考が停止しそうになるぞ、この暑さ……。
「そういやぁ~さ…」
「あ~…」
「あのさぁ~…」
「あ~…」
「今日暇ぁ~…?」
「あ~…」
「俺につきあってくんねぇ…?」
「あ~…」
「合コンに…」
「あ~…」
あぁ、もうワケがわからん。 暑くて頭がどうにかなりそうだ。
「って、何か言ったか?」
「よ~し!!!!! 聞け、真田! 合コンのメンツそろったぞ!!!!
は…? コイツ、俺以外に話しかけてたっけ?
てか、真田って誰だよ。
「合コン! お前、了解したよなっ! なっ!!」
「いや、行かないし…。 あと、自習中だからと言って
声量やまわりを考えずに発言するな。」
「だが、お前は了解したよな! なっ! なっ!!」
時々俺はコイツと友達をやっていていいものかと思う時がある。
ジト目で悪友を見据えつつ、隣の席を確認してみると
俺と同じご意見のようで……。
「まぁ、とりあえず…。 隣にいる怖いお姉さんを
なんとかできたら俺は行っても構わないかな…」
俺は"隣の女子"を指さすと面倒くさいとばかりに机に突っ伏す。
「ん~? いいじゃんかよ、琴吹~」
「べっつに~……。 私は関係ないし!」
じゃあ、なぜそんなにお前は不機嫌なんだと…。琴吹と呼ばれる
俺の幼馴染、『琴吹刹那』に問い正したいが
今、この中にはいってしまえば授業終了まで抜け出せないだろう。
あくまでこのケンカに関しては傍観者という立場の方が面白い。
「琴吹は堅えんだよなぁ~、恋愛に関して~」
「別に海が何をしようと勝手だけど、一星をまきこまないでよ!」
「コイツが17年間恋愛できないのって、琴吹が堅いからだろ、絶対…」
「違うわよ! 一星は17年間、星が恋人だったのよ!」
「ば~か! 星となんて話もできないし、手もつなげないし、ハグも
チューもその先もできないじゃんかよ!!!!」
「バッ! そ、そそそその先とか言ってんじゃないわよ!!!!」
「あっれ~? 恋愛に関してはお堅いことで有名の刹那さんが
なんでそんなに敏感なのかなぁ~?????」
「う、うう、うっさいわね! とにかく、合コンなら海一人で行きなさいよ!!!!」
「男2人の女3人だったら一人かわいそうだろ!!!」
「というか、大体テストも近いのになにやってんのよ!」
「残念ながら就職組には次のテストは全然まったくもって関係ないね!」
「そういう自分は関係ないって意識がそもそもダメなのよ!」
「そういう刹那さんは同じ大学に行くのに必死だねぇ~…」
「なっ!!!!!!」
・・・・・・。 あれ? 終わったのか? 少しの沈黙があったので
顔をあげると、少しだけ汗をかきながら顔が真っ赤になっている刹那と
暑そうなくせに涼しい顔をしている海里がケンカという火花を散らしていた。
「この勝負もしかして…、海里の勝ち?」
「当たり前だな。 俺を口先で負かすにはプロの交渉人を
呼ばないと無理だぜ?」
さすが、交渉人を親に持つ男。 刹那には部が悪いな。
「そういえば、刹那こそ次のテスト大丈夫か?
確か、この前の診断テスト………」
「わ、わかってるわよ! でも、その…。 勉強は……」
刹那が明後日の方向を向いているという事はテスト対策はやってないと…。
そして、今回も赤点の兆しがあると……。
「天下無敵の空手部部長さんも、勉強はダメなのか~。
いや! まてよ…、キャラ的にはいいのか?」
「いや、なんでそこ一人で納得してんだお前……。
しょうがないな…。 また、勉強会開くか…刹那の"ため"の」
「え? いいの?」
「その代わり、一星は合コンに連れてくぞ」
「それはもういいって…」
いつの話だ…。 って、さっきか。
そもそもどんだけ、海里は合コンに行きたいんだか……。
「お前言ってたじゃん、琴吹をなんとかすれば構わないってさ~」
「あ~……………」
言ったかもしれないな。 うん。
「はぁ、わかったよ。その代わり、刹那に勉強教えるの手伝えよ。
文系はお前の方が教えるのうまいんだし…」
「おっけ、おっけ。 じゃあ、決まりだな」
「う~、ごめんね。 一星」
「いいって、別に行くだけなら暇つぶしと思えばいいしな。
それより、刹那は次のテストの事考えた方がいいぞ」
「うっ………」
「んじゃあ、合コンは明日な」
「りょーかい…」
話が終わると同時に自習終了のチャイムがなっていた。
気がつけば、暑さは通り過ぎて、教室には風が入ってきていた。
簡単な人物紹介 ※補足程度。
高嶺 一星
3年C組所属。 この物語の主人公。
塚本 海里
3年C組所属。 主人公の悪友。
琴吹 刹那
3年C組所属。 主人公の幼馴染。
以上です~。