先生のお味噌汁 ~お味噌で繋がる運命~
『なろうラジオ大賞3』の『お味噌汁』編です。
それでは、どうぞ。
「天谷先生、入ります。」
小説家の天谷千春先生に仕える、私。
秘書兼、身の回りのお世話をやっている。
今年で15年。意外と長くやっている。
「おう。」
私は、先生の机にご飯を乗せたお盆を置く。
「毎回、済まないな。」
先生のご飯を毎食作るのも、私の役目。
一度も結婚はしていないようだし、家政婦も雇っていない。
そこの所を聞いてみた。
「……お前のお味噌汁が、死んだ母さんの味なんだ。だから……結婚はしないし、家政婦も雇わない。」
そう、私の作るお味噌汁が『母の味』。
初めて聞いたときは、驚きつつ……ちょっと嬉しい。
結ばれても良いのかな、なんて思った時もあった。
………でも、そこは一線を置く。
あくまでも、先生は先生だし。
私は私。
先生は、私のプライベートは一切聞かない主義なのだ。
1つ、先生が私に聞いた事がある。
「……味噌汁の味噌、何処のを使っているのだ?」
まさかのお味噌汁の『味噌』だ。
「実家から、毎月送ってくる味噌なんですけど。春賀屋の味噌を使っているのです。」
『春賀屋』の言葉を聞いた途端、先生は目を見開いた。
「俺の母の実家なんだ。春賀屋は。」
「えっ?」
どうやら、春賀屋の次女として生まれた娘が先生の母親らしい。
「でも、どうして春賀屋の事を知っているのだ。」
「実は、私もその家の関係者で。」
私の父は大工をしていて、春賀屋に専門的に仕える身だった。
「そうか。」
私自身、そこの所の話は知らなかった。
表情からして、先生もそうだろう。
でも、まさかこうして『糸』が繋がった身だったとは。
ある意味運命、なのかな。
その後も、『先生と秘書』としての関係ではあるが……続きました。
『春賀屋のお味噌』と一緒に。
読んで頂き、ありがとうございました。