実習艦と上級生
そしてまたドタバタの1日が始まる。
「は、早く行きましょう!」
寝ぼけ眼のエーリアの手を遠慮がちに引きながらファルシュは長い廊下を歩く。
「ん……ふぁ〜あらファルシュ、おはよう……ここは何処かしら?全く記憶が……」
『だろうな。俺がここまで引っ張られてきたんだから』
俺は半ば呆れながら言う。
起床時間になってもファルシュに体を揺すられても一向に目を覚まさないエーリアに代わりファルシュに引かれながらも歩いていたのはエーリアの体に乗り移った俺だったのだから。
『あら、そういう事だったの』
『分かったらそろそろ普通に動いてくれないか?俺も体に戻りたいんだが。今向かっている場所はヘルセル達と出会った第Ⅰ密閉ドックだ。今期新入生のパートナーとなる上級生と実習艦の紹介がある』
最初は特に気にならなかったが最近は同じ体に2つの意識があるのがどうにも落ち着かない。
人間としての固有性が薄れるからと結論づけているがそれ故にできる限りエーリアの体にはエーリアの意識だけが存在している方が良いと思っている
『あー確か昨日そんな事言ってたわね。じゃあ体の主導権、代わるわ』
エーリアが自分の体をしっかり動かせている事を確認した俺は元の体に意識を移す。
熱さも痛みも感じない地球のVRをよりリアルにしたような最近慣れてきた視界が映る。
「ん〜!ふぅ……さて行きましょうか場所的にもうすぐ着きそうだけど」
見渡す限りファルシュ以外誰も居ないことを良いことにエーリアは大きく伸びをしファルシュと歩調を合わせると傍に異形の使い魔を従えこれから始まる物語の1ページを刻むべく歩む。
「よ、昨日ぶりだな。また会えて嬉しいぜ」
「正確には半日ぶりだな。また会えて嬉しく思う」
約半日ぶりに聞く男らしい口調とやや古風な口調その声の主が俺たちとファルシュのパートナーとなる上級生だった。
「私も嬉しいです。まさかヘルセルさん達私たちのパートナーだったなんて」
エーリアは爽やかな笑みを浮かべ再開を喜ぶ、が
『え!?すぐに会えるってこういう事?嬉しいけど凄くびっくりだわ!』
内心はさらにめちゃめちゃ喜んでいる。
ファルシュと会った時みたいにもっと自然体で良いと思うのだが、そこはエーリア流の上級生に対する礼儀と言うものか。すぐ化けの皮が剥がれそうだが……
『なるほど、すぐに会えるというのはパートナーとして、という事か。良かったじゃないか顔見知りの人で』
「え?エーリアさん。上級生の方々とお知り合いなんですか!?」
昨日の出来事を知らないファルシュは目を点にしてヘルセル達とエーリアの顔を交互に見ている。
「ええ、昨日女子寮まで送ってもらったのよ」
「送ってもらった!?」
「確かにそうだ。ここで会ったときはならず者かと思って警戒したものだよ」
「警戒されてた!?」
「あの時のヘルセルが作った顔凄かったよな。いつもの3倍増しで眉間にシワが寄ってたぜ。まぁ単純に迷子だったってオチだったな」
「迷子……」
上級生の口から明かされる新事実にファルシュは目を回していた。
「そうでしたね。あの時はありがとうございました……そう言えば実習艦は?」
周りを見渡せば他の班ではドックにそれぞれ駆逐艦や巡洋艦、戦艦が1隻ずつ停泊しており見たところ上級生達が管理している船があてがわれているように見える。がヘルセル達の真後ろにあるドックにはそれらしき船が一切見当たらない。
本来であるならレーベがあてがわれても良いはずなのだが……
「ああ……それか。実はな……俺たちに与えられた実習艦はレーベだったんだが……昨日の航行で壊れた」
言いにくそうに身を泳がせながら突撃隊長はとんでもない事を口にした。
「え?」
途端エーリア、俺、ファルシュ、以下3名全員の表情及び動きが時間が停止したかのように止まった
ただ周りの歓喜が滲む声の波だけが確かに時が動いていることを明確に示していた。
「だからレーベは昨日の航海の後に壊れたんだ……」
その言葉でエーリア周辺を取り巻く空気は完全に固まったのであった。




