方言
『なんだぁ~心配して損したじゃない。照本が急にシリアスな口調で言うから私もつられてしまったじゃない』
クスクスと朝露をキラキラと光らせる花のように笑いながらエーリアは念話で俺に話す。
『俺は結界に触れた物体がいるから湯気を吹き飛ばさせてくれと言っただけなんだが……まぁ何となく予想はついていたんだ。ただソフィーア先生が入ってないのはお嬢様だけだと言ってたし気になってな。あの先生が悪意を持って嘘をつくことはないと思う』
別にエーリアが嫌味を言っているわけではなかったが俺はバツが悪そうに話題を逸らす。
「あ、あの……」
『そうよね。ソフィーア先生、裏がなさそうだしフワフワした感じがして想像してた寮母さんと全然違ってびっくりしたわ。そう言えば……びっくりしたと言えば突撃隊長さんとヘルセルさんの時も驚いたわ。特に突撃隊長さん、ヘルセルさんに向かって叫んだ時に第10惑星の方言が少し出てたわよね。えーと確か照本が住んでたチキュウって所の……』
頭をひねりながらエーリアは考え込むがなかなか出てこないようだ。
『恐らく日本の長崎だな。突撃隊長はあの一瞬しか訛らなかったから正確には言えないが『せからしい』て言葉は九州地方でよく使われている。意味は地方によって少し違うが『うるさい』とか『めんどくさい』てのがある。似てる言葉で類義語として使われる方言としては『やぐらしい』てのもある』
恐らくエーリアが言いたい所が長崎だと予測した俺はついでに補足も付けて答える。
「あ、あのー」
『そう、それよ! 照本よく知ってるわね。照本はそのニホンのナガサキて所の出身なのよね?もしかしてあんな風な方言とか使えるの?』
『ああ、まぁ使えない事はない。むしろ地元でも結構訛っているほうだった。よく「同じ長崎の人なのに照本が言ってる言葉が訛りすぎて理解できないときがあるんだよな~」て言われたものだ。都会に出てからは苦労して標準語に直したがな』
「あ、あの!あなたはシュペー家の方ですよね!?」
「!? え、ええ。そうだけど?どうしたのかしら?」
突然大きな声で話しかけられたエーリアはビクッと体を震わせると少女に向き直り答える。
俺もエーリアもすっかり少女の存在を忘れて念話で雑談してしまっていた。
「そ、その……お体が冷えますので湯船に浸かったほうが良いと思います……わ、私は今直ぐ、出ますので……失礼しました!」
エーリアに見つめられた少女はか細い声でそれだけ言うと脱兎の如き速さで湯船から上がると脱衣場に向かって走り出す。
湯船から真っ直ぐ進み脱衣場がある右側に方向転換……
「きゃぁ!」
『照本』
しようとした所で盛大に滑った。そこだけ重力が無くなったかのように頭と足の位置を逆転させた少女はそのまま頭から
『ランケファーゲン』
する事はなく浴場のタイルを突き破って出現した蔓によって上下逆さまのまま重力と釣り合った。
「あなた……この私から逃げようとしたわね?本来私以外入るはずがないはずのこの時間に……何故かしらねぇ?」
ザバッと不必要にすら思えるほど大きな音を響かせて湯船から上がったエーリアはゆったりとした動きで逆さまになった少女に近づきながら言う。
その顔は湯気で長い髪が張り付いてよく伺えない。
「ひっ!」
少女は青ざめ必死に四肢を動かし自分を縛める蔦から逃れようと藻掻くが蔦は一向に緩む気配がない。それどころかさらに現れた蔦によって抵抗を続けていた手首や足首も縛られてしまう。
それでも身を捩りどうにか逃れようとする少女の腹にエーリアは手を伸ばし……




