シュペー家
暗い……冷たい……海の底に沈んでいくような虚無感と自己の消失これが死んだということか、まぁまだマシだな俺が考えた死とは。
俺はぼんやりとあまりにも遅い回転をする思考で考・え・て・い・た・。
はっ!まて今俺は考えているよな、死んだつまりは生命活動を停止したなら考える事など出来ない。ならなぜ……
そのとき暗闇に包まれた空間が揺れた、ような気がした。
そして俺の意識は急浮上していった。
□ □ □ □ □
「……ひ……ん!」
誰かの怒鳴り声が聞こえた。
しかし目を開けようとしてもなかなか開けれない。
「が……し………う!」
再度の怒鳴り声、俺はあらん限りの力を込めて目を開けた。
そして目に入ったのは視界の右半分を埋め尽くす女性の胸、どうやら俺は膝枕をされているようだ。
どういう状況!?
と言う声は喉につっかえくぐもった声しか出せない。
「あらエーリア起きたのね大丈夫すぐに家に帰れるから」
俺が起きたことに気がついたようで優しげなソプラノの声が響いた。
これはどういうことだ!?教えてくれ!そもそも俺はエーリアじゃなくて輝元!
再度声を出そうと試みる前に全身に衝撃が走る。
「奥様、旦那様、申し訳ありません魔力供給器に損傷を受けました!出力低下しますこのままではセーフティラインを越える前に沈みます!」
切羽詰まった表情を浮かべたメイドらしき人が告げる。
沈む!?ここはまさか船の中なのか?だが俺は間違いなくRLミサイルに木っ端微塵にされたはず……
とにかく膝枕をされている状態では何もわからない。
体を起こそうとするが平衡感覚が狂っているのかバランスがうまくとれず頭をぶつける。
「エーリア大丈夫?」
起き上がろうと悪戦苦闘していると女性が俺の背中に腕を回し起き上がらせてくれる。
『ありがとう』と言おうと振り向いた俺は3つの理由から体が固まった。
1つ目は目線の低さ、小柄なほうだとはいえ165cmはある俺の目線は膝枕をしてくれていた女性の胸下辺りまでしかない。そんな大柄な女性聞いたこともない。
2つ目はその女性の容姿どう見ても日本人のものではなかった髪は銀髪で瞳は深緑のヨーロッパ圏にもそうそういないと思える美人だ。
3つ目はその女性の背後に付いている窓のそとに広がる風景と窓に反射した俺の顔にあった。
誇張でもなんでもなく文字通りの星空が広がっていた。
そして窓に反射した顔は明らかに俺の顔じゃない。
慌てて体をペタペタ触ってみたりする。
明らかに大人の手じゃない、足のサイズも子供のそれだ。
「エーリアどうしたんだ!?さっきの衝撃で頭でも打ったか?」
偉丈夫という言葉の似合う男性がその鍛えぬかれ引き締まった顔を心配そうに歪めながら俺の顔を覗き見ている。
「ここはどこ……」
呆然と呟いた一言に男性(おそらくメイドっぽい人が言っていた旦那様はこの人だろう)は片眉をひょいっと上げた。
「どうやら色々な事が起きて混乱しているようだな。ここはシュテルン・シュトラール、各星間を繋ぐ街道だ。我々シュペー家は王の生誕会に出席しそれを終えシュテルン・シュトラールを通り我が領星である第27惑星に帰っているところだそして残念なことに我々は今死にかけている」
そう言って指さした方向には全身触手だらけの奇怪な生物が迫ってきていた。
ということはあのきもいやつが俺たちが乗っている船を攻撃して絶賛大ピンチ中、ということかそして信じられないことだがこれは俗に言う転生というやつだろうさっき打った頭も痛いしそれ以外に説明もつかない。ドッキリというわけでもないだろう。
そしてなんかよくわからないが、俺は王の誕生会とやらに出席していたようだな。シュペー家ってどこかの貴族か?なら護衛とかついていてもいいはずなんだが。
「まさか第30級魔獣が出るとはな……帰りの護衛代ケチるんじゃなかったな」
おいおい護衛代ケチったのかよ。完全にやらかしているやつじゃないか。
「もう、トーラスは何でもケチりすぎなのよいくらシュテルン・シュトラールの周りを警備団定期的に哨戒しているからって第10級魔獣ぐらいなら稀にしか来ないけどここは辺境の第27惑星よ警備団もおざなりにしか哨戒しないからさらによく遭遇するんだからそれにこの船に武装なんてないんだからケチらないの」
奥様、ガツンと言ってますね。
「トーリア、本当はそうしたほうが良いのは俺も知ってはいるんだよ。まぁとは言っても我々は没落貴族なわけで領民のことを考えるとここはケチらないといけないわけで……」
奥様改めトーリアの苛烈なお説教にトーラスはただ身を縮めるばかり。
トーラスは完全に奥さんの尻に敷かれているな、南無。
「それよりもトーリア、覚悟は決まってるよな?」
「ええ、もちろん」
は!?なんか急にシリアスな感じになってきてる!?
「脱出ポットの用意エーリアだけは命に変えても生き延びさせるぞ!」
さっきのギャグのような緊張感のない雰囲気はどこえやらキリッとしたトーラスは俺を抱えあげる。
「え、どういうこと、説明してよ」
「そんなこと簡単だ、この船はあの魔獣に追い付かれて沈むだろうだからせめてお前だけ……」
『そんな必要はありませんよ、旦那様!』
ノイズがかった声が聞こえた直後窓から鋭い閃光が見えた。
トーラスの腕から逃れ、窓に張り付いて見ると追っかけてきていた触手だらけの魔獣の腕1本が僅かに損傷している。
「来てくれたか!」
トーラスの歓喜の声に同調するように死角になっていた窓の下側から船が1隻現れた。
全周を威嚇するように突き出た砲身、屈強そうな船体それはまさしく艦艇と呼ぶに値するもになるはず、ただ。
「これが?」
船体はリベット留め、砲身もむき出しどうやって弾を詰めてるかも怪しいものだ。
「凄いだろ、シュペー家自慢の1隻だ。後ろからも警備団の準主力艦艇が来てるな助かった」
安心した様子で微笑み合うシュペーご夫妻。
しかし俺は落胆していた。
確かに警備団の準主力艦艇は船体はリベット留めされていない。ただそれだけしか没落貴族の艦艇と差がない相変わらず砲身はむき出し。超のつく低速。
ただそれでもあの触手まみれの魔獣には余裕なようであっという間に討伐された。
「この国で良かった他国じゃ第30級の魔獣が出たら星を1つ捨てなきゃならんらしいからな」
え、他の国これより悲惨なの?
「あれよりも強い魔獣が出たらどうするの?」
不安で仕方ない。
「第30級よりも強い魔獣は自警団全隻で戦ってそれでも駄目なら王直属の主力艦艇達を出すんだ」
ああこれ駄目だな。少しでも安心した俺がバカだった。
「もし王直属の主力艦艇でもどうにも出来なかったら?」
「その辺り1帯の領有している星を放棄して逃げる」
当然のようにトーラスは言った。
「我々が星を出ることが出来たのもつい最近の事なんだ。星が大量にあったからどんどん占領していったわけだが拡大し過ぎて艦艇が足りなくなったんだ」
国全体でやらかしているじゃないか。考えりゃわかるだろ。
「ただ現王が規模の縮小を命じて生活しながら後退することで少ない艦艇でやりくりしている。さらに新たに艦艇を造るための研究施設も作ったし、搭乗員育成のための学校も作って下さった。本当に現王は賢明な方だ」
良かった王様はしっかりことの重大性を理解して領地縮小をしているのか
そして研究施設に搭乗員育成の学校、ねぇ
ただ危機的状況はあまりかわらなそうだな。
そんな考えをまとめているうちに俺の中の何かがうずいた。いや俺はもううずくもなにもやりたくて仕方なかった。
亡き祖父の話でしか動くことの無かったあの旧日本海軍の艦艇達を可能な限り再現してこの世界で活躍させたいと!そしてその先自分の目指す理想の艦艇を作りミサイルだけで決着のつかない砲撃戦をやるのだと!
「トーラスお父様、俺いや僕は艦艇を作ります!」
高々と宣言した。
「そうか!お前ならいけるはずだ、この国の未来に役に立ってくれ!」
こうして俺の艦艇作りへの熱は暴走を開始したのだった。
ギャグはこの辺りでしまいにして真剣に兵器&船体開発するぞ!




