しばしの別れ
「……ああ、そうだな。だがここまでの騒音で練習場に停泊しては悪目立ちが過ぎる。大目玉を食らうのは俺たちだけで良いわけだからな」
「あ~!せからしい!もうすぐ着くってのに考えこむな!騒音が気になるならこうすれば良いだろ!」
ヘルセルが考え込もうとしているのを見て焦れた突撃隊長は伝声管に叫ぶ。
「お前も聞いてただろ!レーベが巡洋戦艦だってとこ見せてやるぞ!」
伝声管から返って来たのはため息だったが了承の意が込められていたのだろう。
突撃隊長はニッと笑うと操舵輪が付けられている台の横の舵輪を回す。
「艦首角プラス70度リミッターギリギリまで転換炉を動かせぇ!帰ったら全員揃って整備長の拳骨食らいに行くぞ!」
横の舵輪の回転に合わせ天に艦首を向けたレーベはほぼ垂直の状態でまるでロケットのように進んでいく。
エーリアは本来の艦艇の動きではないその機動と背面にかかる重力に身動きがとれない。
対して精神体しか持っていない俺はそんな影響も何も受けずああ、突撃隊長ヤケクソになってるな~とどうでも良いことを思っていた。
対してヘルセルや突撃隊長は何の支えもなしに重力に逆らって直立している。
一見すると目の前で魔法のようなことが起きていることになるが俺は気づいた。
ヘルセルや突撃隊長の足元をよく見ると常に小規模な放電が起きている。
あれは俺が自分の体を浮かせているときに使っている『リトルスパーク』の上位版『スブァースボルト』よくあの小さな面積で全体重を支え重力に抗えてるな。
恐らく使い魔を通してではない。ここまで強い魔法を一瞬で使い魔なしではエーリアは構築することはできない。
「ほらよ!ここなら大丈夫だろ!」
俺が舌を巻いている間に目的の場所についた突撃隊長は言う。
「まったくここまでアホだとは……エーリア、手荒なまねになってしまうが許して欲しい。文句が言いたかったら……いやすぐに会えるな。後で聞く。『エアスラスト』は使えるな?出来れば使い魔を通さなくても使えると良いんだが……」
手で額を被い困ったように顔を振ったヘルセルはエーリアに申し訳なさそうに言う。
「あ、はい全然使えます照……使い魔を通さなくても全然やれます」
エーリアは70度傾いた状態のまま答える。
「よし、ならいけるじゃねぇか。腹這いでも良いから体固定しとけよ!」
屈託のない笑いを浮かべた突撃隊長は再度舵輪を回し艦をあろうことか宙返りさせる。
俺が突撃隊長のその言葉を聞いた瞬間に構築した『スブァースボルト』をエーリアは発動させ天井だった所に着地する。
降りたときエーリアの目の前にあるのは上下逆さまになったドア。
エーリアがしっかり立っていることを確認した突撃隊長は機関を止めた。
「よし!エーリア行ってこい!また会おうぜ!」
「……すぐだがな」
逆さまになった状態でヘルセルと突撃隊長は別れの挨拶をする。
「はい!送ってくれてありがとうございます!」
そして俺とエーリアは躊躇なく自由落下するレーベのドアを開け晴天の空に飛び出した。
俺とエーリアが外に飛び出すとレーベは途中で止めていた宙返りを再開し艦を今度こそ水平に戻すと転換炉を再始動遠ざかっていく。
「……気を遣ってくれたみたいだな」
「そうね、わざわざ転換炉を止めて私たちがうるさく感じないようにしてくれてたみたいだし」
地面に向かって落下しながらそんな感想を呑気に言う。
俺がざっと見たところ高度10キロと言うところか下にも配慮をした上での最低高度だとは思う
が本来なら殺しにかかっている高さなんだよな
「お嬢様『エアスラスト』の構築は今の内にしといてくれ1つでいい、ゆっくり降りたいことだし4回に分けて減速するぞ」
1回でも出来ないことはないがエーリアにかかる着地の衝撃それに重なる音が大きくなってしまう。
「分かったわ。降りる場所も修正する必要はなさそうよね?」
「ああ、大丈夫だ。2秒数えたら1回目をやるぞ」
2秒後1回目の『エアスラスト』を発動、その後20秒に1回で発動し4回目には地面にフワリと降り立った。
「よし、ほらさっさと女子寮に向かうぞ。遅刻してたら謝るしかないから心の準備しておけよ、あとそろそろ『リトルスパーク』かけ直せよ。違和感ありすぎだ」
エーリアは『リトルスパーク』をかけ直し今度は迷わないように地図を注意深く確認しながら進み……
「エーリアさん!大遅刻ですよ!」
寮母さん?から怒られた。
「す、すみません……」
女子寮の玄関で仁王立ちしていた寮母さんらしき女性に申し訳なさそうにエーリアは項垂れる。
「全く!心配したんですからね!?いつまでたってもエーリアさんだけがこないんですから心配したんですよ。今度からは気をつけてくださね。わかりましたか?」
「はい……気を付けます」
「ならいいのよ!あらそうだったわ。私の名前はソフィーアよ~。この女子寮の寮母をやってるわ寮で困ったことがあったら私に相談するといいわ~。もちろん、恋のお話もね」
そう言ったソフィーアはイタズラっぽくウィンクをした。




