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第4話 模擬戦闘

 パーティメンバーを募集した次の日。




「イヨちゃん、俺が! 俺がパーティメンバーに募集するよ! 一緒にベッドで寝転がりながら天井のシミを数えよう!」「いや、俺が! 俺こそがイヨちゃんに御眼鏡に叶う強い男さ。その証拠に冒険者ランクはBもある。さぁ、今すぐ俺と模擬戦闘した後に、戦場を寝室に移そうじゃないか!」「なんだぁ、おめぇみたいなゴミとイヨちゃんは戦わねぇ。見ろよ、この名刀ニルグヘルグを! この前、ダンジョンで手に入れた神聖装具の一種だぞ! これならイヨちゃんにも勝てる筈! 終わった後は一級品の俺の刀も見てくれよな!!」




 ギルドの前にはたくさんの男性で賑わっていた。皆が皆、興奮した表情で、私の申請した募集書を握っている。




「おぉ! やっぱり私の募集要項は間違っていなかったじゃないか! こんなにも候補のメンバーが集まっている。なぁ、ミナ」




「え、候補のメンバーなんて何処にもいないじゃないの。あそこに居るのはウジ虫よ、目の毒だわ、イヨ」




 私が沸き立っている男冒険者達を指差す一方、ミナは白けた視線で男たちを一瞥していた。


 はっ、まさか……ミナは見ただけで彼らの実力を見抜いたと言うのだろうか。だとすれば凄いと言わざるを得ないが、さすがに一度も立ち会わずにそれを決めるのは早計過ぎやしないだろうか。




「えっと……すいません! お集まりの皆さんは私のパーティ希望で、さらに模擬戦をお望みという事で良いんですか!?」




 大声で人だかりに向かって呼びかけると、こちらを振り返った男達が一斉に沸き立った!!




「うぉおおおおお!! パーティ募集のチラシで見た通り若くて美人じゃないか!!」「これは期待大だ!!! ヤバすぎる!!!」「いや、待て隣のふわっとした子もすげぇ可愛いじゃん! 俄然やる気出てきたわ」「うぉおおおお、イヨちゃん!! うぉおおおおおお!!!!」






「す、凄いよ、ミナ! 私のパーティになりたいって人がこんなに! 私の真摯な思いが伝わったんだね、感動だぁ」




「うん、そうだね。一ミリも伝わってないね」




 相変わらずどこか冷ややかな視線を男達に向けるミナ。まぁミナは人見知りなところがあるから、こういう反応を見せるのも仕方のない話なんだろう。






「んー……でも、どうしよう。こんなに沢山の人、一度に相手に出来ないなぁ」




「……、あたしに良い考えがあるわよ」




 ミナはさっきまでの白けた様子は何処へやら、一転してニコニコとした陽気な笑顔を浮かべていた。




「え、どんな?」




「もう一度に戦ってしまえば良いのよ。それであんたが相手を認めればパーティに加入させてしまえば良いし、手っ取り早いでしょう?」




「んー、本当なら皆丁寧に相手したいんだけれどなぁ……」




「皆を丁寧に相手したい!? ……あのおなご、なかなかの好きモノと見た!」「うぉおお、しかも一度に沢山相手してくれる!? なんと言うやつだ、これがびっちという奴か?」「まあ、あんなチラシを出すような奴だ。それはもう弩級のビッチよ」「うぉおおおおお、夜に向けてテンションが上がってきたぜぇえええええ!!!」






「ねぇ、ミナ。びっちでなんだ?」




「あんたがそれを知る必要はないわ」


 ミナは私の問に対してにべもない言葉を返す。しかしながら、それ以上は聞いてはいけないオーラを発していた。




 もしかして……「びっち」と言うのは凄い人の事を言うのだろうか。それを言われている私に対してミナは嫉妬しているとか? ふふん……私も随分と都会に詳しくなってきたものだ。えっへん。




「それと、イヨ。一つ良いかしら?」




「何だ?」




「ここに集まっている人達はあんたのパーティ募集要項を見て集まったクズ……じゃなかった、屈強な方々よ。そんな人達に対してあんたが手加減するのは失礼に当たるわ」




「え、どうして?」


 まずは実力を見てから徐々にこちらもギアを上げていこうかと思っていただけに、ミナの言葉には疑問を覚えた。




 しかしながら、そんな私の疑問などお見通しかと言わんばかりの言葉をミナは続ける。




「良い、ミナ。彼らは一級の腕前を持つ戦士達なの。貴方は彼らの実力を見定めているのかも知れないけれど、あちらも貴方の実力を見定めているの。一級の戦士達が加わるに足る仲間かどうかね。そんな素晴らしい戦士達に対してこちらが手加減をするのは失礼にあたるわ。そうでしょう?」




「そ、それは……確かに!」




 もし最初から全力で行かなければあちらに実力を誤解されたまま失望され、とりつくしまもなく帰ってしまうかも知れない。




 な、成程。さすがはミナだ。頼りになる子である。




「ちなみにミナ。あんたなら少し相手の動きを見ただけでおおまなか実力は分かってしまうかも知れないけれど、それで油断してはいけないわ。一流の戦士は油断しているかのように見せかける戦略をも身に着けているかも知れないわ。そうでしょう?」




「た、確かに!!!!!!」




 そんなミナのアドバイスを受け入れた上で、私は集まってくれた皆を街の中央広場へと誘導して伝える。






「えー、私がリーダーを務めるパーティへの加入希望の皆さん!! 今から私と一斉に模擬戦闘をして貰います!! そこでパーティへ加入していただく方を選ぼうと思います!」




 ちょっとだけ偉そうな物言いになってしまった事を反省しつつ、そのような概要を皆に伝える。すると、




「よっしゃあぁああああ、盛り上がってきたぜぇ!!」「つまり、早い者勝ちなんだな、そうなんだな!?」「いや、待て。結論を急ぐな。募集要項には勝った時の約束に人数の制限はされていなかった。つまり、勝った全員が彼女を好き放題出来るのでは!?」「やったぜええええええ!!! 素晴らしい祭りが始まるな!!」




 どうやらこちらの物言いに対しては少しも気にしていない様子である。良かった、良かった。皆、良い人みたいだ。




 そんな人達相手に失礼にあたるであろう手加減するなんて考えちゃいけないな。うんうん、やっぱりミナの意見を聞いて良かった。




「それでは……模擬戦闘開始の合図はあたしからさせていただきまーす!!」


 模擬戦闘に巻き込まれないように少し離れた場所にいるミナが開始の合図を務める事になった。




 なぜか先程から終始ニコニコした様子のミナ。どうしたんだろうか。仲間が増える事を思って、喜んでいるのだろうか。




「それでは、逝っきまーす!! (死に向かって)5、4、3、2、1……スタート☆☆」




 何やらカウントダウンの前に何かしら聞こえたような気がしたが、小声過ぎて聞き取る事は出来なかった。




 ともあれミナのカウントダウンが終わると同時に男たちが一斉に私に向かって飛びかかってきた。




「うぉおおお、イヨちゃん、うおおおおおおおお!!!」「さぁもう逃さないよ! 俺の腕の中に飛び込んでおいでぇええええ!!!!」「その華奢なぺたんこ平原を俺達の前にさらけ出してくれ!!」「どんなプレイスタイルでも俺達は受け入れる!! いや、受け入れてみせる!!」「ビッチ最高!! うぉおおおおおおおお!!!!」




 そんな声が私の耳に飛び込んでくる。




 いや、正確には既に音は言葉ではなく、気配を探る一要素でしかなかった。




 相手との距離は一番前にいる人ですら、まだ十メートル以上の距離がある。数は十八、こちらに向かって四方八方から飛びかかってくる。統制の取れていない動き。無論、何の準備もしない内に組み付されてしまえばこちらの負けは確定だ。




 だが、十メートルもあれば、どんな魔法でも正確に発動する余裕はある。それだけの修行は親父に何度も施された。




 けれど、今回は相手に合わせる。こちらに魔法を撃ってくる気はない。であれば反転術式を仕込む必要はない。魔法障壁も要らない。と言うか……何の準備もなしにこちらに向かってきているが……良いのだろうか? これではこちらはやりたい放題だ。いや、ミナの言う通りこちらを油断させる罠かも知れない。




 ひとまず私は魔力の「爆破」を用いて一瞬のスキを作り出す事にした。




 魔力を一定の空間内に対して爆発的に注ぎ込む。空間内に溜め込める魔力には限りがある為、一定の量を超すと処理しきれないエネルギーが外へと放出される。その放出は単なる風魔法の比ではない。さらにこれに魔力により圧力を掛ける事で、瞬間的な爆発は大きく増幅する。勿論、周囲への影響を考え、爆発は即席の魔力結界により抑えるが、結界内の衝撃は計り知れないものとなる。




 これで一流の戦士達を倒せるとは思っていない。だが、スキを作り出せば、次の攻撃が通る。それで最大限の魔力掌打をお見舞いすれば最低一人は倒せるだろう。




 そう思って放った一撃は、魔力障壁で防がれる事もなく、ともすれば親父がよくやるような同じ規模の魔力の爆破で相殺される事もなく、こちらに飛びかかったまま攻撃範囲に入っていた男達総勢十八人に直撃した。




 直撃を喰らった男達は一切の悲鳴を上げる余裕もなく、街から見えない彼方に吹っ飛んでいった。




「…………え、…………あれ?」


 まさか創作魔法により分身を生み出したのかと思ったが、五秒経とうが十秒経とうが彼らが帰ってくる事はなかった。




「うんうん、じゃあ今飛びかかってきた男達はもう負けね」


 そんな中、一人驚いた様子を見せていないミナが、勝利を宣言する。




「え、いや、……いやいやいや!! ちょっと待って、ミナ!!!?? あの人達、油断しているんじゃなかったの!? なんか飛んでっちゃったよ!!!??」




 も、もしかして私、偉い事しちゃったの? あの人達、そんなに強くなかった!? 私、もしかして……とんでもない事をしちゃったのか!?




「ああ、大丈夫よ、ミナ」




「な、なにが大丈夫なのさ!!! あわわわわ……、あんなの一般人が喰らったらそれこそとんでもない事に……」




「違うわよ、ミナ。それこそあの人達は一流の戦士達だった。でも、油断した。それだけよ」






「え、……それ、だけ?」


 キョトンとした顔を見せる私に向かってミナはしたり顔で頷く。




「そうよ。油断して貴方の攻撃をまともに喰らった。けれど、それだけ。彼らは一流の戦士だもの。あんなの喰らっても屁ではないわ。今頃、あんたの強さを知って悔しがっているかもね」




「う、ううーん。そっか、……なる、ほど?」




「そうよ。けれど、油断したくらいだから、あんたの作るパーティのメンバーとしては相応しくないわ。そういう訳で、あの人達は失格。それで良いわよね。それに腕に覚えのある人達を募集したんだもの。あれくらいの攻撃を喰らったくらいでどうにかなる人達じゃない。そうでしょう? それこそ心配するのは却って失礼よ」




「え、うん、そっか……うん、そうかも!!」




 ミナの言い分を聞いていると、確かにと言う気がしてきた。




 腕に覚えのある屈強な人達を募集したのだ。であれば油断したとは言え、あれくらいの攻撃でどうにかなるものではないだろう。私の親父はあれくらいの攻撃、生身で受けきってたし、強い人達ならきっと大丈夫に違いない。




「じゃあ、行くわよ、イヨ。多分、さっき以外にもゴミ、いや……募集していた人がまた集まっているだろうから、また処理……じゃなかった。模擬戦闘しにいくわよ」


 ミナがそう言って、ギルドの方へと戻ろうとする。




「あ、待ってよ、ミナ」


 私はミナの後に続き、その場を後にする。




 そうだ。私はまだまだパーテメンバーを募集したばかりなのだ。


 その後、




「あれ、ミナ。何しているの?」


 ギルドの方へ戻ろうとすると、ミナがいつの間にか後ろを向いていた。




「んー、合掌よ。一応ね」




「合掌?」




「良いから、行くわよ」




「あ、分かった。待ってよ、ミナ」




 そう行って先を急ぐミナに続き、私はその場を後にしたのだった。




 

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