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第2話 幼馴染


 エイトがリーダーを務めるパーティから抜ける事になった私が途方に暮れていると、後ろから気配を感じる。




 それが魔物であったら勿論即座にぶっ倒すけれど、気配は見知ったものだった。聞き慣れた足音が近づいてくるのを聞き取りつつ、肩をぽんと叩かれる。




「残念だったわね、イヨ」




「ミナ」


 振り返るとそこには馴染みの顔があった。明るい髪色のロングヘアで、お嬢様然とした雰囲気の女の子。フリルで飾られた可愛らしいローブを着ていて、私にとっては憧れの存在だ。




 ミナリア=ミレニアム。通称ミナ。私の幼馴染で、一緒にエイトのパーティに所属していた娘だ。ここに居ると言うことはーーーー




「あれ? もしかしてミナもエイトに追放されちゃったのか?」




「まさか」


 楚々とした様子で微笑むミナ。




「あんたとは違うわよ、あたしは自分から辞めたの」




「え、何で?」




「そりゃあたしは何かと危なっかしいあんたを放っておけなくて、冒険者になったんだもの。エイトのパーティに所属していたのはあんたが居たからに他ならないんだし、あんたが辞めたら私も辞めるのは当然よ」




「そうなの? なんか、その……ごめんな? ミナも巻き込んじゃって」


 私が少しだけ居た堪れない気持ちでいる中、ミナはかぶりを振って微笑む。




「良いのよ、あんたと一緒に居るのは私が好きでやっている事なんだし。それに昔から言っているでしょ? あたしはあんたに命を助けられた事があるんだから、これくらいは当然よ」




 ミナは十年前も前の話を、いつものように持ち出してきた。




 ミナとの出会いは十年前に魔物に襲われているところを私が助けた事がキッカケで仲良くなった。




 私としては困っている人を助けただけに過ぎなかったのだが、それ以来ミナは私が遠慮すると、その時の話をして気を遣わないよう取り計らってくれるのだ。




「……、そっか、さすがはミナ。頼りになるな」


 この話をする時は、それ以上は気にしなくても良いとミナのサインだ。なので、こちらも気にしないでミナに甘える事にする。昔からの取り決めであり、とても頼りになる娘だ。




 幼馴染で親友ミナはいつも私の世話を焼いてくれる。どうやらミナが言うには私は少し世間知らずであるとの事で、色々と教えてくれる。




 元々、私は田舎暮らしで、冒険者を目指して都会に出てきたのはつい最近の事だ。




 それまでは親父と暮らしていて、いっつも親父による修行に付き合わされっぱなしだった。


 都会に出るまではそれが普通の事だと思っていたが……、どうやらそんな風に修行修行ばかりの日々は珍しいものであるらしい。




 いや、地元にはミナ以外には歳の近い子供はいなかったから、むしろミナの方がおかしいものだと思っていたが……、ミナに言わせるとズレているのは私の方であるとの事だった。




 でも最近では街での暮らしや貨幣の相場、美味しい食事を作ってくれるお店や恋愛について、特に恋に性別は関係がないなどの人それぞれの価値観の話については熱心に教えてくれる。だから私は多少世間ズレしていても、そのままでいられる。そういう事について私はとても感謝しているのだ。




「それで、イヨはこれからどうするつもりなの?」




「どうするって……、仕方ないからまた別の冒険者パーティを探そうかと思っているよ」




「その婚約者探しって……それも、『一族の教え』って奴よね?」




「そうだよ」


 私はミナの問に対して頷いた。




 私がこうして婚約者探しをしているのは『一族の教え』によるものだ。








 私の一族である『威角』の一族は代々、魔族に対する抑止力の一つとなる為に力を磨き続ける事を是としているとの事で一族に生まれた子供は誰であれその武を磨く事を強いられていた。




 中でも女として生まれた場合には『自らより強い者と結ばれる事』との掟がある。




 よって婚約者探しに生きないといけないのは仕方のない事なのだ。




「でもね、私の場合は親父が『これでもか』ってくらいに鍛えてくれちゃったから……私より強い人って珍しいみたいで……」


 父の言い分としては『可愛い娘を嫁に出すとか絶対イヤだから、嫁に行けないくらい強くした』との事だった。それを知った時には例え父相手にもぶっ殺したろとか思ってしまったものだが……。私の魔力を何重にも込めた拳を喰らってもしぶとく父はしぶとく生き残っていた。もう少し急所を抉るようにして穿けば良かった。




 そんな私の苦い思い出はともかくとして、ミナは私の言葉に対して感想を述べる。




「あんたより強い人が珍しいって言うか……本当にそんな人居るのかしら。エイトだってAランク冒険者だったんだから、ぶっちゃけかなり強い方の筈よ」




「うん。だから修行したら私なんかよりずっとずっと強くなると思ったんだけど……」




「……死地に置いてけぼりにしたり、四肢の筋肉を断裂させる拷問をあんたの価値観では修行と言うのね」




「え、でも修行としては初歩の初歩じゃないか。私、三才の頃には『ダンジョンで一週間一人で生き残ってみせろ』とか言われて魔物ばっかりの奥地に一人で放置されたぞ」




「急な闇深設定」




「それまで魔物の生肉は美味しくないし血生臭くて食べられたものじゃないって思ってたんだけど、他に食べるものがなかったから克服するしか無かったんだよなぁ、懐かしいなぁ……」




「ツッコミ所しかない闇深エピソードをさも『好き嫌いを克服したほっこりエピソード』みたいに言うのは止めなさい」




「で、でもミナだって幼い頃にはハイハイの練習してただろ? それのほんの少しだけやり過ぎただけじゃないのか?」




「少なくとも赤子をダンジョン奥地に放置するのは、通常ただの子減らしでしかないのよ、イヨ」




 えぇ……私の一族の教育ってやっぱり少しばかりズレてるんだなぁ、色々ミナと一緒にいると勉強になるなぁ。




「でも、ミナも一緒にエイトの修行案出したじゃないか。あれは冗談でやってたの?」




「いや、そうだけど……でも、あの殺人フルコースみたいな修行メニューを本当に実行するとは思わなかったのよ。……それに」




「それに?」




「…………そんな事をイヨが言えばエイトも早々に諦めつくかなって――――何でもないわ」




 ミナは小声で何か言ったかと思えば、最終的には言葉を途中で切ってしまう。




 まあ、ミナがどれだけ意見を出したとしても最終的に実行したのは私なのだから、責任転嫁は止そう。それに意見を出してくれたミナを責めるのはお門違いも良い所だろう。




「まあ、あたしとしては二人で冒険をするのは楽しいし、あたしはむしろそれが良いと思うくらいなのだけれど」


 ミナは「二人で」という部分を強調する。




 恐らく二人で冒険者を営む事は大変であるのを承知の上で、エイトによってパーティを追放されたのを私が気にしないようにするミナによる気遣いだろう。さすがはミナ、優しい子だ。この娘の幼馴染で本当に良かった。




「二人の冒険は悪くないと言え……、その、貴方の目的を達成する為には…………、……………………、うん。まぁ、他のパーティに所属するのは、良いわよ」




「何か凄い間があった気がするけどーーーー」




「偶然よ」


 即答するミナ。何か物凄い葛藤を間の中から覚えたのだが、どうやら気の所為であったらしい。




「それよりも、イヨ。貴方自らがパーティメンバーを募集するのはどうかしら?」




「パーティメンバーを…………募集?」


 言葉を反芻する私に対して、ミナは頷く。






「そう、貴方自身がパーティのリーダーを務めれば良いのよ。勿論、貴方より強い婚約相手を見つける為に冒険者パーティに所属するって言う貴方の短絡的な作戦は、基本脳筋思考のあんたにしては悪くない作戦よ。けれど、貴方がパーティリーダーを務めるなら、ある程度条件を絞り込めるわ。その方が貴方の目的に合っていると思うのだけれど、……どうかしら?」




「さ、さすがはミナ!! 完璧な作戦だ!!!」


 私は手を叩いてミナの作戦に対して同意する。……ん? でもちょいちょいバカって言われてる私?




 とは言え、さすがはミナだ。普段から『良いかしら、ミナ。1パック限定って市場で言われているお肉は、実は少しだけ格好さえ変えて再度訪れれば2パック以上でも買えるのよ』と言いながら、3パックを買うなんて離れ業を見せるだけはある。知将とはまさにミナの為にある言葉だ。




「じゃあ、早く冒険者ギルドに行って、パーティメンバーを募集出来るよう手はずを整えなければ!!!」




 そう口にしつつ走り出そうとする私をミナが「待って」と呼び止める。




「? どうした、ミナ?」




「いや、えっと……その」


 そんな風に少しだけ頬を染めつつ、ミナは言う。




「ちなみに……その、パーティメンバーはどんな条件に、するつもり?」




「え、……うーん、そうだなぁ。まあ、えっと、例えば『屈強な男性』とか……」




 そんな風に頭にパッと思い浮かべた条件を口にするや否やミナが凄い剣幕で言葉をまくしたてる。




「うん、まあ賛成と言えば賛成だけれど、やっぱり少し修正が必要にも感じるわ。『屈強』ってだけの条件だと、例えば見かけだけの筋骨隆々の男性だっているわ。でも、それは見かけだけ。ねぇ、イヨは知っているかしら? 都会ではたまに屈強な男性を集めてボディビル大会ならぬ自分の筋肉を自慢し合う大会があるそうよ。つまりそういったボディビル専用の体作りをする為に筋肉を鍛え上げる人がいるのだけれど、それは要するに魅せる用で戦闘にはあまり効果のない筋肉を鍛えている場合も多々あるそうよ。それと、あたしとしてはこれが一番重要だと思っているのだけれど、やっぱり男性って言う条件だけを指定するのはあたしとしてはやはりナンセンスだと言わざるを得ないわ。都会には今やジェンダーフリーって言葉があって、愛の形は男女に留まらないの。言ってしまえば女の子と女の子にも愛の形はあるって事よ。イヨの一族の言う婚約者ってのも男性を指定している訳では決して無いと思うの。だから、もっとグローバルな広い視野で持って婚約者を探す事が、今の時代には必要だと感じているの」




「え、えっと…………」


 ミナの早口で捲し立てるような剣幕に圧倒されながら、どうにか私はミナの言っている言葉の意味を読み取ろうとする。




「えっと、つまり……女性の婚約者って言うのも考えられるって事なのか?」




「え、ええ……ま、まあそういう愛の形もあるって事よ。勿論、個人にもよるけどね。でも、あたしとしてはイヨに最も幸せな婚約者を見つけて貰いたいの。だからこそ常識には囚われない考え方をして欲しいと言うか――――」




「そうなの? えーと、私としてはお付き合いってした事ないからよく分からないけれど……、でも普通女の子は男の子と付き合うものじゃないの?」




「勿論、それが常識的な考えである事は否めないわ。けれど、あたしはそういう一般的な論調に留まらない本当に愛の形をイヨには探して貰って、具体的に言うならばもっと身近に目を向けて欲しいと言うか、貴方に優しくしてくれる昔からの馴染みの相手が貴方の婚約者として一番相応しいんじゃないのかなって思うと言うか――――イヨ、聞いてる?」




「う、ううーん……」


 私はどうにか頑張ってミナの言葉を理解しようとしていたが、途中で頭がパンクしてしまう。やはり頭が良いだけあってミナの言葉は難しいものが多すぎる。




 そんな私に対して、ミナはふぅっと短く息を吐きつつ、言う。




「ま、結局は貴方の婚約者だものね」




「……色々ごめんな、ミナ。それとありがとう、ミナ。たくさんアドバイスくれて」




「そういうまっすぐな言葉は色々あって今のあたしには効くから止めて」


 ミナはそう言って、ううーんと懊悩とし始めた。照れ隠しだろうか? それはそれとして、「サブリミナル的にそっち系に価値観寄せられればワンチャンあるかもだけど、でもそれにしてはイヨは純粋過ぎて辛い……」などと聞こえるのだけれど、一体何の事だろう。




「まあ、あたしのアレな思考はさておき。これは私の腹黒い作戦とか無しの発言なのだけれど、貴方は女の子相手にはモテると思うわよ」




「ミナは腹黒い事を言っていたのか? それと、私的には女の子相手に『は』ってところが引っかかるんだが……」




「…………、それは兎に角」




「いや、そこには答えてくれないのか、ミナ!!」


 なんだ! 私は男性相手にはモテないタイプなのか!? 婚約者探さないといけないのに、かなり向いていないのか!!!




 何でだ!? あれか、腹筋か!? 腹筋がバッキバキに割れているのがいけないのか!? それが女の子らしくないって言うのか!?




「ミナ、昔あたしを助けてくれたじゃない」




「うん、それはさっきも聞いたけれど……」




「その時から暫くの間、あたし、あんたの事男の子だと思っていたわよ」




「!?」 


 なん……だと……ッ!?




「ま、そういう訳だから、女の子相手にはモテると思うわよ」




「え、ちょっと待って、ミナ! ミナちゃん!? 私、いつまでミナちゃんに男だと思われてたの!? ねぇ、ねぇってば!!!!」




 その後、暫くの間、私はミナに対して、事の真相を尋ねていたが、結局その真実については答えてくれなかったのだった。

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