退治6
「違、う‼ 神とは――総てを救う、最上の存在でなければ・・・ッ‼」
「お前はそうなれなかったのに? そんな都合のいい存在が居るとでも?」
「そうだっ! いない‼ いないからこそ、我が――ッ‼‼」
「また同じ話を繰り返すのか? 学習しねぇな。だからお前は負けたんだ」
「ならば・・・ッ‼ ならば、貴様らが崇める、神とは・・・なんだ⁉⁉」
「生贄だよ」
透き通る瞳が見開かれる。
「どうにもならねぇ現実やその理由の責任を押し付けて、俺達の心の代わりに死んでくれる存在。それこそが神の正体だ」
「そんなものを、崇めるというのか・・・そんなもので、満足していると。貴様はそう言うのか? 救われるべき存在が救われず。尚貶められ、蔑まれ、苦しめられようとも、それでいいとッ‼ そんなものが正しいのだと‼‼」
「正しいかどうかじゃねぇ。神が救うのは心だけだ。それとな? 救われるべき存在なんてのは居ねぇんだよ。なぜなら神は頂点に座す存在だからだ。そいつから見りゃどんな生物も、どんな階級も、思想も生い立ちも関係ねぇ。一切の違いなく、ただの命だ」
「嘯くな‼‼ 優れたものは存在する‼‼ そして、優れた存在はそれ故に優先されなければ――ッ‼‼」
「優れた存在ねぇ? その例えばがお前だって言いたいんだろうな? だが、お前は優れた存在なんじゃねぇよ。気の毒になるほど勘違いした馬鹿でしかねぇ」
「・・・ッ‼‼ 勝ったからとて、好き放題を‼‼」
「その感情自体が八つ当たりだ。つっても、理解できねぇよな。だから醜態を晒して尚、この態度なわけだしな」
「我は・・・・・・ッ! 我は龍王に―――ッ‼‼
「龍王の候補に選ばれた、それだけだろ? それじゃ優れてる証明にはならねぇ」
「貴様が‼ 貴様が、竜族のなにを知ったつもりでッ‼」
「そうだな。なにも知らねぇよ。俺も・・・・・・、神もな」
「ッ⁉⁉」
「言ったはずだ。神は生物の頂点。見下ろすだけの存在だ。社会も文化も、持たねぇ神が基準にするなら自分だけだろうよ。で? 自分が思い描く神のような存在にすらなれなかったお前の、どこが優秀なんだ?」
結局は妄想に過ぎねぇんだ。
自分は他より優れているという妄想。
同じ種族で比べりゃ差は出る。だが、それが優れているとされるのは社会や文化、文明があってそこに生活を根差しているからに他ならねぇ。
海を泳ぐ魚に、地上を速く走ることが無価値なのと同様。
「人でもなけりゃ竜でもねぇ神に、能力の違いなんざ無価値なんだ。だから、神は概念であり続ける。そしてその限り、誰もを優先したりしねぇ。なにせ概念は現実に干渉しねぇからな」
「ち、違う・・・アレは実在する! 我ら竜族は、神の存在を認識できる‼ なにより、ッ加護についてはどう説明する⁉」
「俺は加護を持ってねぇし、周囲に振りまくギフトを持ってるが、その恩恵もほとんど見たことがねぇ。生成した薬の効果が良くなるぐらいで、値段は人間側の都合だ。それこそ、個人差で片付く範囲だろうよ」
「だが我ら竜族は、確かに・・・ッ‼」
「だったとして、干渉を受けたことは?」
「・・・・・・~~~~ッ‼‼」
声を絞り出そうにも、ありもしねぇ答えは登場しねぇ。
「壁のシミと一緒だ。太陽や月でもいい。日が眩しいから目を閉じた。そのせいで集中が切れた。夜が暗いせいで手元が狂った。そのせいで怪我をした。活動や行動をしたのは人間で、ただし責任だけは太陽や月へと押し付ける。そうやって心を庇う。神はその最終形ってだけで認識できようができまいが、そこに在るだけで変わりがねぇなら、受け取る側の問題だ」
昼間に見る壁のシミにはなんとも思わなくとも、夜に見れば恐いかもな。ただそれは子供だからとも言えるし、大人になっても変わらねぇのかもしれねぇ。見た側の受け取り方次第で、そんな感想は幾らでも変じる。
誰かがそれを神だと言ったから、神だと思うようになっただけ・・・。
そんなつまらねぇ話だって有り得るだろう。
「お前はただ、幻想に取り付かれて暴れただけのうつけだ。恥も知らずに、自分は優れた存在だから救われるべきだったなんぞと宣いながら、殺しに走った大うつけ。理想にもなれず、折角知覚してた神にすら縋れず、惨めに殺されるだけの劣悪種。必死に神を気取ったおかげで、心に神を持たねぇお前は、自分の身も、心さえ救えず死に絶える。誰にも望まれず、救われず、嘲り笑われて朽ち果てる。喜べよ。お前の死に様は永久に語り継がれるさ。哀れな落伍者として、唾棄すべき的としてな」
見開かれたままの瞳をのぞき込み、一言一句を脳に刻み付けるように語り掛けながら構える。
照準は瀕死の肉体。
「ま、待てーーーッ‼‼」
歪む口元を隠しもせず、当然。
待つわけがねぇ。
発光一直。
暗闇に閃く。
伸びる影がトドメの如く突き刺さる。
「危ない‼‼」
誰の声か。
聞こえる前には振り向いていた。
俺の影が目の前に伸びるなら、光源は背後。
白い結界を呼び出し、進行を防ぎ・・・きれず。黒い結界を呼び出すより先に、視界が黒に染まる。
ドゴンッ‼ という衝撃が脳にまで響いた。




