退治2
「やっぱり、あの壁さえなければどうってことないわね!」
暴れるドラゴンを見て即座に回収したアンナが隣で笑う。
よっぽど良い手ごたえだったのか、剣をブンブンと何度も振ってご機嫌だ。
「移動の方はどうだい? 急に目の前の光景が変わるのは慣れないだろう? その他にも、浮遊感や落下感が不快だとか・・・」
「問題ないわ。見えてるものが変わって混乱するなら、見なきゃいいのよ! いつ移動させるかは、ゼネスの方を見てればわかるんだから。それに内臓が浮くような感覚もなければ、身体ごと落ちるような感覚もないわよ? 怖いくらい地面にピッタリ、違和感だってないわ!」
「そうなのかい? 地面と重なるように移動させてしまったらどうなるかもわからないのに、随分と強気だね?」
アンナを質問攻めにしていたジーナの矛先が向く。
「そのための線引きだろ? マスごと動かすんだ。削り取った地面ごと入れ代わることはあっても、地面に埋まることはねぇよ」
「マスごと? 非効率じゃないかな?」
「結界を移動させて分かったことだが、空間転移の魔力消費量は質量に依存するらしい。空気を動かすだけなら消費はゼロだ。ほとんどな」
「空気にも質量自体は存在するはずだから完全にゼロではないのだろうけど、面白い話だね? ああいや、古くを言えばゼロであっているかもしれない。無いという概念が定義されるようになったのは割と最近の出来事だからね」
「よくわかんないけど場合によっては地面が割れちゃったりするってこと? 気を付けといたほうがいいかしら?」
脱線するジーナを他所に、アンナは次を想定し始める。
「いや・・・表面を削るってだけだから、石ころが一緒に移動する感じだな。地面自体は平らになるだけだ」
「それならいいわ。踏んづけて転ばないようにってことね」
しかし、一度頷いてから、首をかしげる。
「実際にさ、移動先に別のものがあったらどうなるのよ?」
「恐らくは、移動先にあるものを移動物が押し退ける形で転移するんじゃないかな? 転移後に結合や癒着を起こすかどうかまではわからないけれど、どちらにせよ碌なことにはならないだろうね?」
「結合とか癒着って、どういうことよ?」
「例えば、硬いものを柔らかい塊の中に転移させたとする。その時、結合や癒着などが起こらなければ、柔らかい塊はパックリと裂けるように変形するだろう。まるで刃物にでも斬られたように」
「ってことは、結合とかを起こしてたら・・・」
「繊維が張り付いて、かさぶたを無理やり剥がす時のような粘りが出るね」
「滅茶苦茶痛そうね。アタシの足が地面に埋まったらどうなるのよ・・・」
「装備を付けている間は大丈夫じゃないかな? 地面より硬い素材を使っているわけだし」
「ならよかった・・・っていうか、それなら武器だけ飛ばせば―――ッ‼」
真理に気付いた顔でアンナが振り向く。
「ま、勝てるだろうな」
「あのね! そんなあっさり‼」
勢い任せに突っ込んで、それでも。
「・・・なんでそうしないのよ?」
理由を聞けるのは、母親譲りの甲斐性か。
「あっけなさすぎるだろ?」
「拘り過ぎるんじゃないわよ」
「わかってるさ。ただ・・・突き付けてやらねぇと気が済まねぇんだよ」
「なにをよ?」
「現実ってやつをな」
もう復讐に囚われちゃいねぇ。爺さんには会えたから。
これはもっと子供じみた・・・・・・そう、気晴らしってところだ。




