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退治1

 ゆっくりと、自然体で、クライフはドラゴンの前に立つ。

 睨めつける2つの双眸は、本来なら人の動きを縫い付けるに十分な迫力を有するが、クライフはただ悠然と構えた。


 言葉もなく、前触れも見せず、ドラゴンはブレスを使った。

 2方向から1点へ、照射されるブレスは大気を焦がし、人の骨をも残さず溶かす威力を誇る。

 しかし、いずれにせよ。


 当たれば――・・・の話だが。


「・・・すごいな」

 漏らしたのはクライフで、もちろん声だけだ。


 その目の前には2種類の色が重なった壁が立ちはだかっていた。

 上2マス、下3マス。それが前後に。

 2M四方なら人を覆うのも難しくはないが、前方に並べるだけで防ぐにも足る。なにより、取り敢えずで20も作ってもらったが、全部を同時に動かすのは精度に欠けそうだった。半分がいいところだろう。


 ドラゴン渾身の不意打ちは、虚しくも白い壁に阻まれ、勢い余って左右に伸びた余波が、なんとか前に進もうと放射状に暴れるものの、標的を飲み込むことはなく、奥にあった黒い壁の内側に少しばかり食い込むのがやっと。


「白が魔法障壁で黒が物理障壁だな」

「俺には金と銀に見えるし、正面からドラゴンブレスを浴びせられてるせいか、幻想的な光の壁にしか見えないよ」

「私の位置からは紫に見えているね。しかも、それをブレスの光が通り過ぎるわけだから、紫色の光線がクライフ君を彩って見えるよ」

 それぞれ異なる見え方をしてるようだが、効果に変わりがねぇならいいさ。


 奇襲は続く。

 半透明なドラゴンが腕を振り上げ、クライフの斜め前へ。

 不透明がブレスを続けてることで意表を突くような攻撃ではあるが、


「ッ‼‼ チィッ‼‼」

 叩き潰すような掌は黒い壁に受けられ、爪が刺さることもない。


 今度は縦に3マス並べ、一番高いマスの左右に1つずつ。

 出来の悪い傘みたいな形であっても、揺れたり崩れたりはしないようだ。

 まぁ箱状に見えてるだけで、本質は結界だからな。

 質量や接地なんて概念は実際にはない。


 更に続けて、半透明なドラゴンはもう一度ブレスを吐こうと口を開けた。

 結界であることを瞬時に見抜いたのは流石だが、


「なぁっ⁉⁉」

 繰り出す瞬間、鼻先に白い壁が1マス。

 やはり放射状に押し広げられたブレスは、前には進めず霧散する。


 そう、2種類の結界に質量はなく、それぞれが物理と魔法の干渉を防ぐ。

 俺はそれらを中空の線を目安に、ほとんど魔力を消費せずに壁として出し入れできる。


 逆巻くようなブレスの軌道にドラゴンは面を喰らい、仰け反ろうとするが、

「ッ⁉⁉」

 後頭部へと張り付くように黒い壁。


 頭がつっかえ、その隙にクライフが斬り込む。

 心臓・・・には届かなくとも、胸部へと振り下ろされた剣は、

「無駄だと言った‼‼」

 斬れるは斬れるが、効果が見えない。


 ならばと。

「――グゥッ⁉⁉」

 暇そうにしていたアンナを不透明な方へ。

 出しっぱなしだったブレスを無視して、無防備に放り出されていた尻尾を一刀両断するような真っ向からの斬り下ろし。


 ほとんど板のようなアンナの大剣であろうが、ドラゴンの体積に比べりゃ細くて小さい。接地面に掛る圧力は切れ味を上回り、断絶させるに足る威力となっていたはずだ。

 まぁ、実際には鱗のおかげか切断とはいかなかったが・・・。

 半透明なドラゴンから苦痛の声が漏れる程度には効いたらしい。


「アレはどうなっているんだろうね?」

「本体と繋がってるからか、それとも―――」

「感覚の共有、あるいは幻肢痛のようなものかもしれないね?」

 斬られた不透明な方は悶絶しながらも、暴れることで反撃。声にならない悲鳴を上げて痛みを全身で表現していた。

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