対峙6
鉄臭いニオイが鼻腔を占め、喉奥をも侵す。
無意識に前のめりとなっていた顔面を強かに、冷たく打たれる感覚。
遅すぎたんだ。
前が見えない。
痛みにのたうつことでさえ、重みに耐えきれず叶わない。
「・・・・・・やってくれる」
堪え切れず、怨嗟の言霊が零れる。
仕方がねぇさ。当然だ。
誰も。
上手く行きそうだったものを崩されれば、恨み言の1つや2つは口をつく。
それが、大いなる覚悟をもっての行動だったのなら、なおさらだろう。
「どんな気分だ・・・?」
この問いに応えられる奴は1人しかいない。
そう―――、
「ちょっとくすぐったいかしら」
俺の腕に抱かれているアンナだけだ。
「今のが空間を移動した感覚なのね。変な感じだったわ!」
「そうか。無事で何よりだ」
向かい合うように抱きしめていたアンナを降ろす。
咄嗟の空間転移。
アンナの存在を手元に引き寄せることで状況の打開に成功した。
直前に閃いたせいで感覚頼りだったが、距離と位置の把握は魔力の共有のおかげか、ほぼ完璧だったらしく。事故はアンナの胸当てで俺の顔面を強打するに止まった。
「にしても、こんなことできるならもっと早く使えばよかったんじゃない? そうすればアタシが、さっきみたいな窮地に立たされることなかったのに」
「魔力の消費が激しいんだよ。それに思いついたのもついさっきだ」
「あと何回なら出来るのよ?」
「2回ってところだな。丸薬1個分は消し飛ぶ」
「そんなに⁉ もうちょっと、どうにかならない? またあんな状況になるのは嫌なんだけど」
「慣れりゃぁ多少はマシになるだろうが・・・」
「そんな時間はないってわけね。取り敢えず、アタシの分は渡しておくわ」
アンナから魔力回復用の丸薬を貰いつつも、視線を敵から外すことはねぇ。
それほどに怒気を、殺気を放ってやがる。
「・・・どれほど我を、虚仮にすれば気が済むというのだ? あまつさえ、群れる弱さを見せつけようなどと‼」
そんなつもりは微塵もなかったが、そうか。
コイツはなにも、守れなかったんだったな。
「好き好んで孤高を選んだのはお前自身だろ? 当たるなよ」
小馬鹿にして逆撫でにすると。
別れた2つの存在は重なり合い、より一層険しい溝を刻む。
死角からの攻撃が通らなかった挙句、あんな離れ業まで見せられちゃ攻め難い。
どうにか隙を生み出すためにも、頭に血を昇らせ判断を鈍くしたかったが。
―――シン。と、静まり返るような怒り。
空気を研ぎ澄ませるのはアイツの殺気か。
突き抜けると途端に、冷静になる質だったようで。
策を練るにも時間は必要。
つっても、慎重になったところで不利ばっかりがかさむ。
「どうやら、お困りのようだね?」
そこへ、妙に上機嫌なジーナが口を挟んできた。




