自由を見た
「いや、すまなかった! まさかそんな理由だったとは、思いつきもしなかった!」
「そりゃそうだ。誰だって思いもしねぇだろうよ。あんな昼間の街道で、酔っ払いに絡まれてるなんてな」
俺達は後からやって来た鎧姿の兵士に事情を説明し、乗ってきた馬車に同乗させてもらっていた。
出会い方が特殊過ぎたせいで、説明が面倒になるかと思ったが・・・あまりの酒臭さに皆まで言うなと納得してくれた。
そして、俺達を見咎めたのは自分が兵士で、最近ここらでは賊が出るからだ。と教えてくれた。
まぁ、俺達のような子供を賊だと思ったわけではなく、真似した愉快犯だと思ったようだが・・・それはそれでひどい話だ。
傍から見れば、手出しできない騎士を相手に子供がたかっているように見えたんだとか・・・。
それにしたって、おかしいだろう! とは、言わぬが花か。
「けど、君達はこんなところでどうしたんだい? さっきも言ったけど、ここいらには最近、賊が出るんだよ? 目的は知らないけど、時期を変えるなり、お供を増やすなり、したらどうだい?」
事情を話す際に冒険者と名乗るよりも、持ち物を見せてと賊じゃないと証明した方が早そうだ。ということで、そうした結果。
俺達は貴族の子供・・・ではなく、金持ちの息子で道楽で旅をしていると思われてしまったようだ。
賊じゃない証明にはなったし、態度を改めるのも、改めさせるのも、ましてや名乗るのもまた面倒なので、誤解は解かず、そのままにしようということになった。
「今じゃないとダメなんですよ!」
「なにかあるのかい?」
「知りませんか? 自由騎士フリーダム‼ この辺りに来ているらしいんです!」
「自由騎士・・・って言うと、あの冒険者の?」
「そうです!」
「それでわざわざ?」
「はい!」
「変わってるねー?」
背中に板一枚挟んだ御者台からでも、酔狂だなという言外の声が聞こえてくる。
確かに。
噂は噂だ。
そんな不確かなものの為に、子供が2人で出向いてきたと思えば、変わり者だと思われるだろうし、ボンボンの遊びとも取れるかもしれない。
だが、俺達は冒険者ギルドに所属していて、確かな筋の情報で・・・って言っても、それを教えてないわけで。
「それで? 会ってどうするんだい?」
「え?」
「なにかあって、ここまで来たじゃないのかい?」
「あ、はい。それは・・・強さに憧れてる・・・と言うか」
「そうだろう? だったら、会ってどうしたいとか、なにかあるんじゃないのかい?」
「・・・・・・そういわれると、なにかっていうのはない、ですね・・・」
「あっはっは! そうかい?」
楽し気な笑い声だ。
だが、俺達は知っている。この空気を。
これは、バカにされている空気だ。
出来もしないことを。口だけならなんとでも。どうせすぐに諦める。
今まで幾度となく言われてきた。
それでも、俺達はまだ返す言葉もなければ、示す力もない。
だから、クライフも耐えていた。
もっと考えていれば良かったのか? と言えば、違う。考えたって一緒だ。見たこともない相手を前に、なにが出来るか・・・なんて、考えたって意味なんかない。
ただ、一目見られれば、なにかがわかるかもしれない。
そう思うことが悪いなんてことはない・・・はずだ。
どうしようもない空気のまま、視線を伸ばす。
そこには、酒に酔い、うつぶせに倒れたまま、馬車の隅に引っ掛かるように置かれた重装の鎧が、小さく呻きながら揺られていた。
せめて、バカにされるにしても、ああはなるまいと思う。
「ん?」
それは御者台の兵士の声だった。
「どうした?」
「煙だ。しかもこれは・・・町の方角じゃないか⁉」
御者台側を覗ける小窓からでは残念ながら確認できない。
「こっちからじゃ見えないが、おかしいのか?」
「色も、量も、尋常じゃない」
クライフを見ると目が合った。
なにも言わなくても、クライフは頷く。
「とばすか?」
「そうなる! 悪いけど、掴まっていてくれよ‼」
言うや否や、馬車は急激にスピードを上げて、町を目指した。
町に近づくと悲鳴や罵倒が聞こえるようになり、このまま馬車で街の中に入るのは良くないと、少し手前で降りる。
「私が様子を見てくる。君達はここで待っていろ!」
「様子を見て、どうするつもりだ?」
「もちろん協力を呼ぶ。町が混乱しているなら、警備の人間だけでは手が足りなかったということだからだ。どれぐらいの応援が必要かを確認したら、近くの町までその時に送る! だからしばらくの間、ここで待っていろ!」
「俺達にだって! 出来ることはありますよ‼」
「悪いが、君達のことを信用できない。この町は私の故郷でもある! 下手を打たれちゃたまらない」
言ってることはわかるが・・・、
「その鎧は領軍のだろう? ここから一番近い領軍のある町だと、馬車で片道1時間はかかる。応援要請から準備を始めたんじゃぁ往復で2時間以上だ。その間、街は放っとくつもりか⁉」
「だったらどうする⁉ 領軍が居ながら町は荒らされてる‼ であれば、それなりの手合いだろう‼ それを相手に出来る戦力を呼んでくるしかないじゃないか‼」
「緊急招集は出来ないが、これでも俺達は冒険者なんだよ。依頼があればどんな場所だろうと介入できるし、それが事後承諾であっても問題ない。だから、アンタはここから皇国軍の駐屯所に向かえばいい。馬車でとばせば30分もかからないだろう?」
「君たちが行ってなにが出来る⁉ それに、領軍は皇国軍には――」
「--頼らない。今回の場合は頼れない、か。そんなことは知ってるんだよ。言っただろ? 俺達は冒険者なんだ。そいつを連れて行けば、アンタはそいつを送っただけってことになる」
「ゼネス‼」
「お前は人を殺したことねぇだろう? こういうのは俺にやらせときゃいいんだよ」
「言いたいことはわかった。けど‼ 君1人になにが出来る⁉」
「アンタは知らないだろうが、賊は冒険者って奴が死ぬほど嫌いなんだよ。そこに、ガキの冒険者が1人。ヒーロー気取りで現れりゃぁ・・・時間稼ぎぐらいにはなるさ」
盗賊、山賊、海賊。
なんでもいいが、賊と付く呼び方をされる奴らは基本的に冒険者と言う職種が大嫌いだ。
やってることは大して変わらなくても、依頼があるというだけで許される。
それなのに、自分達には前科があるせいで冒険者になることも出来ず、むしろ、そういう奴らにはした金で狙われ続けながら生活しなければならないからだ。
「極力、町に被害は出さないようにする。それでいいだろ?」
「いいわけないだろ⁉」
そういったのはクライフ。
そして、
「そうだぜ? さっきっから物騒なことばっか言ってよぉ? まるで本当に人を殺したことがあるみてぇによぉ?」
だぁっはっは! と馬車から顔・・・というより兜だが、を出してくる重装鎧。
「あったらおかしいか?」
「そりゃぁおかしいだろう? どう見たって駆け出しなんだからなぁ!」
嘘だとでも思ってるのか?
駆け出しにそういう依頼は回らないから・・・。
だが、
「生憎、そういう家に生まれたんでな」
国防の要と言われる家に生まれた。
守るために必要だと言われた。
兵としての力。将としての知識。戦うものの覚悟。
初めは処刑を見るだけだった。次に合図を出し、そして。
躊躇えば、受刑者はのた打ち回り、それに熱狂する民を知った。
憎いものが傷つく姿は、大層な娯楽になるらしい。
「冒険者は関係ねぇってか? だったらなおさら、おかしいじゃねぇか?」
「なにがだ?」
「冒険者として人を殺したことのねぇやつが、人殺しの冒険者としてなんて振舞えるわけがねぇだろがい‼」
どういうことだ?
「意味わかんねぇんだよ‼ 必要なのは事実だろうが‼」
「それじゃぁただの人殺しと変わらん。今求めてるのは、町を襲う賊をなめ腐った冒険者・・・だろ?」
一瞬だけ、神妙な空気でそういうと、
「なぁに、ここは任せてもらおう! 代わりに、報酬にうまい酒をたらふく用意してくれよぉ? てめぇらはただ、眺めてりゃいいのさ! なんてったって、おれぁ自由だからよぉ‼」
俺達が止める間もなく町へ繰り出した。




