憧れの――
抱えるようにして木人形ごと持ってきた鎧は・・・俺の腹を抱えさせてくれる。
「く・・・はっはっは‼ バリ”アント”アーマーか! 洒落が聞いてて、いいんじゃねぇか?」
そうその鎧は、この間の緊急依頼で大量に集まった蟻の素材だけで作られた鎧だった。
「捨て値同然で手に入ったからな。1個でも売れりゃ大儲けよ! って作ってはみたんだが・・・そもそも客が来やがらねぇんで、売れやしねぇ! そんでもまぁ、出来は保証してやるぞ‼」
頭の先から足の先まで。
素材を丁寧に選別したんだろう。違和感がない。
叩いて延ばせる金属と違って、こういうのは在り物の素材で作る。
だから、気を使わなければ碌でもないものになったりするんだが・・・この鎧はよく出来てる。
パッと見で左右対称なんじゃないのか、と思えるほどに。
「暇人ならではの時間の掛けようだな? 素材選びだけでも相当だったろ?」
「まぁなぁ。けど、久々に楽しかったんだぜ? なぁんにも考えずにいられたからなぁ」
「そりゃぁ、明日の飯にも困るような状況だ。現実見てるよりはいいかもなぁ?」
「あぁそぉだよ! 畜生め! そぉいうんなら、なんでもいいから買っていきやがれ!」
「そうだな。そのために来たんだしな・・・つーことで、ジェイド。とりあえず着てみろ」
そう促すが・・・微動だにしない。
「そ、その・・・それ、は流石に・・・あんまりなんじゃ・・・?」
代わりにケイトがバリアントアーマーを指差しながら言う。
「そうか? 使えるもんならなんでも使えばいいだろう。因縁だろうが、苦汁だろうが、忘れてなけりゃ役に立つこともある。忘れないために、あえてそういうもんを持つ奴もいるぐらいだ。冒険者らしくていいじゃねぇか?」
「それは・・・でも・・・」
「それとも、他になんか理由があんのか?」
反応ないこと無視の如く。ジェイドに詰め寄って、見下ろして、聞いた。
「・・・・・・―――いけないのかよ」
「あ?」
「憧れてちゃいけないのかよ‼」
睨め付けるように見上げるジェイドに、言うべきことなど最早ない。
「憧れでも夢でも、好きにすりゃいいさ。だがそいつは現実にはならねぇ。お前が弱いからだ!」
そうだ。
何度でも言ってやろう。
「出来るんなら、やればいい! だが、出来てねぇから言ってんだろうが‼」
死は恥だ。
高望みは死を招く。
「くだらねぇ理由で、使えもしねぇ装備にこだわるんなら、冒険者だなんて認めねぇぞ‼」
「アンタになにがわかる‼」
情けなく喚くお前が、なにをもって死にたがるのかは知らねぇよ。
けどな・・・。
「わかるさ」
「なにがわかるっていうんだよ‼‼」
「自由騎士・フリーダム。お前の憧れだろう?」
「⁉⁉」
なにを言ったわけでもないのに、憧れの相手を言い当てられたからか、目を白黒させてるが・・・なにも難しいことじゃない。
固く身を守る重装甲の鎧に、到底不釣り合いな軽い片手剣と小さな盾。
魔法を主体に盾で殴る、人を食ったような戦い方は・・・名前同様、ふざけたその騎士の特徴だ。
個人S等級。
自由騎士・フリーダム。
騎士の癖に冒険者。もうこの時点でおかしいが、おまけに名前が”自由”で自由騎士。
完全ソロで、依頼も受けず、報酬も要らず、ただ放浪する強者。
「喜べ。そんなお前には、あの鎧がピッタリだ」
「どういう意味だ‼」
「名前からして、わかるだろう? それぐらいふざけたやつなんだよ」
「アンタがなにを知ってるっていうんだ‼」
「知ってるさ・・・」
なんてったって、
「会ったことがあるからな」
あれはまだ、俺達が2人だった時のことだ。
あの頃のクライフもまた、自由騎士に憧れている一人だった――
友達に進められて始めたウマ娘のアプリにハマりました。
時間が・・・