せんせい
『まずは朗報を喜ぶとしようじゃないか。私達の選択は無駄ではなかった。なにせ、あの洞窟と同じ効果の罠が張り巡らされていたのだから、ここも。敵の下へと繋がっていると考えられる』
それは間違いねぇだろう。
疑心暗鬼ってほどじゃねぇが、迷いがあったのは事実。それが晴れるのは光明が差したと言っていい。
『次に予想が当たったこと。これは、あの罠とイーターの2つの予想だね。あの効果はどれか1種類の感覚を失わせるものらしい。といっても、完全にそうだと決まったわけじゃないことには注意しよう。油断を誘うためにあえて・・・というのは幾らでもあり得る。逆にイーターの出現によって吹き降ろしの風については答えが出たと思っていいね。これほどの速度で動いていれば、あれだけの強風を生み出すぐらいの風は巻き込んでいて当然だ』
油断を誘う――・・・それほどの余裕が敵にあるか?
つっても、イーターに喰われる直前を思い返せば違和感もある。
なんで視覚を奪い続けなかったのか?
見えねぇままならイーターの存在に気付かなかった可能性はある。
なにより、気付いたとして。対応が遅れた可能性はなくなりゃしねぇ。
にもかかわらず、途中で聴覚を奪う効果に切り替わった。
単純に範囲の問題か、あるいはなにか。そこに意図があったのか。
どちらにせよ。もし、視界を奪われたまま今の状況になっていたとしたら、イーターに喰われてから聴覚を奪われていたとしたら・・・。
こんな悠長にジーナの言葉に耳を傾けてなんざ居られなかっただろう。
『けれど、悪い知らせもあるね? それは土竜の生存だ。敷き詰められたイーターの上に落ちたなら、土竜は生存しているだろう。流石にイーターじゃ束になっても竜種には敵わないからね。そして、あれだけの数の移動とこの速度。とても自然とは思えない』
そうだ。
いきなり土竜が飛び出してきたあの場所。
穴を掘るような音は聞こえなかった。
だとすると、直前までは既に道として存在してたか、音が聞こえなくされてたか。
両方あり得るが、後者だとしたら五感を奪うってのは・・・。
『さらに言うなら、今この状況だ。私達はいったい、どこへ向かっているんだろうね?』
意味深な問いかけ。
まるで分り切ったような言い方。
こっちの声が聞こえねぇことを良いことに言いたい放題。
だが、否応なく気付くこともある。
気付かされるっつーべきか。
存在感。
生物としての格差。
近付いている。
魔力の塊に。
「随分ご立腹みたいじゃない。いったい何がそんなに不満なのかしら」
「怖いですね。何も見えないはずなのに、だからこそ憤怒の象徴が見える気がします」
「ああ、確かに。昔ゼネスを怒らせた時のことを思い出したよ」
「ゼネスさんがお怒りに? あまり想像できません。敵に向ける殺意なら、鮮明に思い出せるのですけれど」
「それを鮮明に思い出せるというのもどうなんだい? とはいえ、私も怒り狂う彼を見たことは無いし、想像もつかないね? いつも嫌そうな顔はされるのだけどね」
雰囲気を和まそうとでもしているのか、また詰まらねぇことを・・・。
いや、いつから声が聞こえるように?
不意の疑問を貫く閃光。
視界全てを塗り潰すような光線が俺達へ喰らいついてきた。




