おっさんの名は。
《そっちはなにかあったのか?》
『内乱に関しちゃなにも。ただ、最近教皇の爺さんに呼び出された』
《グレアム教皇に?》
『あぁ。孫の聖女認定試験を手伝ってくれってな』
《それは光栄なことじゃないか》
『面倒なだけだ』
《学園時代よく構ってもらってたんじゃなかったか? 孝行しておいてもいいんじゃないか? 出来るうちに》
『あの爺がすぐ死ぬたまかよ。それに、借りはもう返してある』
《でも手伝うんだろう?》
『正式な依頼だからな』
《全く、素直じゃないな?》
「うるせぇよ」
そう呟いて、あとは取り留めのないくだらない話だけで定期報告を終えた。
翌朝。
「昨日のお話を受けようと思うんですけど、その前に。私達に足りないもの・・・教えてもらってもいいですか?」
出会い頭にエイラのそんな言葉を受け、俺は残りの3人も連れていつぞやの鍛冶屋に顔を出していた。
「相変わらずしけてるな?」
「そぉでもねぇさ。なんつったって、今客が来たんだからなぁ」
嬉しそうに言ってくれるが、
「そいつは勘違いだな」
「勘違いぃ?」
「そうだ。俺はこいつらの・・・特にこいつの装備を売りに来たんだからな」
ジェイドを前に出して宣言する。
「なあ⁉」
そんな話は一切してなかったせいか、ジェイドがものすごい顔で俺を見る。
それにしても、当たり前の反応なんだが・・・信じられないっつー声が、信じられないって顔から出ると、なんかそれだけで笑えるな。
そんな、笑っている俺を見て、
「どぉいうこった?」
鍛冶屋のおっさんだけが真面目に話を聞いていた。
「そうだ! どういうことだ‼」
「どういうこともなにも、こいつの装備はいらないから買い取ってくれってだけだ」
「オメー。うちの状況知ってんだろぉ? そんな金がありゃぁ道具を買い替えてるってんだ!」
「そうだ! こんなボロ小屋のような店に! 俺様の装備を買う金があるわけないだろう‼」
「んだとぉ‼ このガキィ‼」
「事実を言ってなにが悪い‼」
同調してたかと思うと一変して反発したりと、忙しい奴らだな。
「金は気にすんな。この間みたく、代わりの装備をくれりゃぁいい」
「ああ! そんなら大丈夫だな!」
「どこが大丈夫なんだ‼ こんなボロ小屋の装備なんか、要るわけがないだろう‼」
「あぁん?」
「なんだ?」
顔を突き合わせて威嚇なんざいいから。
「さっさと装備を出せ」
その言葉に従ったのはエイラだ。
背負っていた背嚢からジェイドの装備を取り出す。
「なにしてる‼」
「言われた通りにしてるだけでしょ」
「それは俺のだろう! 勝手に渡すな‼」
「そういうなら自分で持ちなさいよ」
「全くだな。つーか、他人に装備を持ち歩かせるな。着とけ」
鍛冶屋のおっさんからエイラに標的を移そうとするジェイドを引っ掴み、動きを止める。
その間に、敵がいなくなったおっさんが出された装備を査定する。
「こいつぁなかなかのもんだな。この国の兵士が使ってる鎧なんかよりゃ立派だぜ」
「当たり前だ! 俺様の装備だぞ‼」
「だが・・・なるほどなぁ。確かにこりゃ売りたくもならぁな」
「なに⁉ どういうことだ‼ お前も今、褒めていただろう‼」
「モノはいいんだ。だがなぁ・・・オメーにはあってねぇだろぉ?」
昨日もそうだったが、着てるというより、着られていると言った方がいいぐらいには装備が身の丈に合っていない。
本人もわかってるはずだ。
だから、常時着用せずに持ち歩いているんだろう。
「ぐッ・・・」
「防具もつけれねぇで、今後どうするつもりだ? 死にたがりなら他所でやれっつったよな?」
「俺様はまだ成長するんだ‼ すぐに使えるようになる‼」
「で? これじゃなきゃならない理由は?」
他3人は首を振り、
「・・・・・・・・・」
ジェイドも、なにも言うつもりはない、と。
「どこの貧乏人だ? お前は。いつか使えるつって、ゴミ抱えてなにがしたいんだ?」
「ゴミだと⁉」
「どんな宝だろうが、使えねぇならゴミでしかねぇよ。持ってても、なんの役にも立たねぇんだからな」
「夢を見ちゃいけないのかよ‼」
「夢は叶えてこそだろう?」
どんな夢かは知りゃしないが、今のままじゃ叶えるより先に死ぬ。
「夢だなんだは現実ぐらい見てからいえよ。何度でも聞くが、死にてぇのか?」
一体、何度目だったか?
「こんな使えもしない鎧よりは、この―――」
誰だ?
「おっさん。そういや名前、聞いてなかったな?」
「そぉだったか? ってか‼ 看板表にあんだろぉが!」
「見た覚えがねぇ・・・」
「オメー・・・・・・先生よぉ。そぉいや、名前も聞いちゃいねぇ。とんだ客もいたもんだぜ、おい?」
確かに名乗った覚えもねぇ。
「悪かったな。ゼネスだ」
「よーこそ。バルシムの鍛冶工房へ」
お互いに、奇妙な名乗りを聞き上げた。




