波乱
1分ほどか、窮屈だった光の輪郭が拘束から解き放たれる。
それは通路の終わりを示し、空間が広がっていることを知覚させた。
寝室、あるいは居室か。
知ったことじゃねぇが、問題は予想をはるかに超えた広さだということだ。
暗さで反対側の壁が見えねぇ。
手元の光がそこまで届いてねぇってことだ。
「どうやら、袋の方だったみたいだね?」
「・・・そうだな」
モンスターは、いや・・・人間以外の生物の多くは、無駄を必要としない。
この部屋が広いのには、それだけの理由がある。
例えば、
「キュォオオオオオオオ‼‼‼」
利用する数が多いとかだ。
恐らく反対側の壁にも通路があって、そこからもう1匹。土竜が現れた。
さらには、先に俺達のことを捕捉したらしい。
いつまでも手元に光を残したミスだな。
加えて、
「ギュオオオォォォォオオオオオオ‼‼‼‼‼」
明らかにさっきまでの比じゃない怒叫。
「バレたね」
「・・・ああ、そうだな」
通路ですれ違った時点では番だと思っていた。
だが、3匹も居ればその予想は外れだ。
一家と考えるのが妥当。
すると、最初の1匹は何に当たるか?
母か? 父か?
そんなはずがねぇ。
いつだって、最も欲望に忠実なのは子供だからな。
焼け焦げたその姿を見て、何も思わねぇわけも無し。
「どうする⁉ ここで戦うか?」
「迎え撃つにしても通路の方がまだマシだ」
「戻るなんて言わないよな?」
「当たり前だ! 突っ込むぞ‼」
わざわざブチギレたモンスターを正面に据える必要はねぇ。
間に敵を挟めば同士討ちだって狙えるだろう。
クライフと一瞬の作戦会議を終え、またも駆け出す。
「ッ⁉ 回り込め‼‼」
先頭で声をあげるクライフ。
全員が即座に左右へ展開すると、ゴゥン‼‼ と鈍い音。
先導していた光へ目掛けて土竜が舌を伸ばしたんだろう。
僅かに息を堪えた声と、続いて吐き出す息の音。
通り過ぎ様にも確認するが、きっちり防いでいたようだ。
このまま雪崩れ込む――・・・つもりだった。
バババババッ‼ と空気を叩く音が、背後から。
見るまでもねぇが砲竜だ。
ま、見ようとしても暗くて見えねぇんだけどな。
ただ、全部が見えねぇわけじゃねぇ。
「止まるな‼ 走れ!」
前方からの強襲を防いだ仲間へ言うには酷だが、仕方がねぇ。
クライフの元へ。いや、光を目指して。砲竜が迫っていた。
2発。そして5発。
両腕に残っていた石弾を撃ち切り、何匹かを撃ち落とす。
悪手であることはわかっていた。
それでも、ここで追いつかれるわけにはいかなかった。
這う這うの体となりながらも、どうにか土竜の足元へと滑り込む。
土竜としても、狙いを絞るには状況を把握できてなかったに違いない。
これで――・・・。
と、思うのも束の間。
魔力の集束。
「砲撃だ! 集まれ‼」
小さき者達の逆襲が始まる。




