直進
穴という穴から何かが降って来る。
まるで小さくしたワイバーンのような・・・・・・。
「砲竜ッ⁉⁉」
蝙蝠に似た翼膜を持ち、翼竜の様に飛び、古龍の如きブレスを吐く竜。
それが砲竜だ。
全長は翼を広げて2M程。基本的には少数の群れで生活する。
他種とも共生することで知られているため、そこがワイバーンとの違いとして識別されることも多い。
小柄といわれる部類に在りながら、その豊富な魔力と凶悪なブレスの威力で恐れられる竜種。その威力は俺の籠手からも証明されている。ありったけの魔力を撃ち出すマナバーストは、砲竜の器官を利用して作った。
そんなもんが次々と―――。
「走れっ‼‼」
ここが外であれば、空を埋め尽くすほど・・・と表現するぐらいの数が、止めどなく落ちてくる。
負傷し、地面に打ち付けられたまま動かない個体もいるが、それはあくまでも一部。
立ち上がり、浮き上がった砲竜が状況を理解すれば、どうなるか。
「なによアレ‼ どれだけいれば気が済むのよ‼‼」
「あの壁の穴は砲竜を落とすための罠だったんだ‼ 土竜からすりゃぁ俺達こそが招かれざる客だったんだろうよ‼‼」
「それってアタシのせい⁉」
「いいから走れ‼‼」
ここは土竜の餌場なのはわかってたが、その対象がまさか砲竜だったとは。
そんなことを考えながらも直走る。
餌場だけで過ごす生物なんざいねぇ。
当然、穴は奥へと続いてる。
その先がどこへ繫がるかは不明だが、贅沢を言える立場でもねぇからな。
「結界を張りますか⁉ 時間稼ぎくらいにならなるはずです!」
「いや、いい‼ 突っ走れ‼」
「ど、どうしてでしょうか⁉」
「最悪の場合を見越してだ‼」
「その最悪の場合というのはどういうものでしょう⁉」
並走しながらも、後ろ髪を引かれるように振り返っていたフェリシアへ、疑問を返す。
「あの数を見たか?」
「もちろんです! 数えきれないほど大量に‼」
「アレ全部を1匹の土竜が喰い切れると思うか?」
「ッ‼ 思いません‼ ですが――」
「土竜は大喰らいだっつー話だけどな! 流石にアレは喰い切れねぇよ‼」
そう断言する頃には、答えともいえる存在が佇んでいた。
「キュオオオオオオオ‼‼‼」
狭い通路だが・・・、
「走り抜けるぞ‼」
隙間がないわけじゃない。
土竜であっても、身体が擦れるほど狭い通路を使いたくはねぇんだろう。
両脇、あるいは股下なら走り抜けられる。
ダンダンダンッ! と、どうせ使いどころのなさそうな石弾を土竜の顔目掛けて連射する。
どれも命中はするが効果はない。
精々が、
「ギュオオオオオオオ‼‼‼」
ちょっと怒らせるぐらいだ。
その間に早々と走り抜け、追い迫る風切り音を擦り付ける。
「上手くいったようだね! しかし、完璧でもなさそうだ。追撃は止みそうにないけれど、次の手は考えてあるのかい?」
「そんなもん、あるわけねぇだろ? このまま行くぞ!」
「都合よく砲台として使われたりしないかい?」
「そうなりゃ魔力を吸い上げて枯らしてやるよ! 都合よく敵の膝下に出ればな‼」
「確かにそうだ。まいったね。袋のねずみか・・・虎穴であればいいんだけどね」
頭でも煮詰まったのか、その割には詰まらねぇことを言うジーナをよそに暗闇を引き裂き進む。




