割れ目
「もういっそ別の場所を探すのはどう? 直接は繋がってなくても、最終的にドラゴンのところまで行ければいいんでしょ?」
自暴自棄にでもなったかのように前提を崩す発言がアンナから飛び出た。
「その考え自体は間違っていないけどね。まあ落ち着きたまえよ。そう都合よく別の穴など見つかると思うかい? ましてや、これだけの対策が練られているんだ。例えあったとしても、同じ対策がされているかもしれない」
「時間と体力の無駄かもって言いたいのは分かるわよ? でも、ここでこうしてたって同じことじゃない! それに、穴ってだけならすぐ近くにあるんだから、確認ぐらいしてもいいでしょ!」
「言いたいことを理解してくれて――・・・ん? すぐ近くに穴?」
「そうよ! っていうか、気付いてなかったの?」
アンタは気付いてたわよね? という視線が飛んでくるが、
「俺達は探知を使ったから気付いただけだ」
なぜ気付けたのかを教える。
「そう言えばそうだったわね。穴はあっちにあるわ・・・よ?」
指差した方角には一面の雪景色だ。
「穴・・・あるわよね? この辺りに」
「上に雪が積もって見えなくなってるな」
「穴が雪で埋まってるってこと⁉」
「そうじゃねぇよ。割れ目の縁に雪が積もったんだ。両側から伸びていけば、いずれは蓋になる。橋を架けるようなもんだ」
「それって危なくない?」
「危ないな。だから注意は怠るなよ」
「アドレスにもあるのかしら?」
「頂上付近にならあるんじゃねぇか? あそこも万年雪が積もってるしな」
「いつか誰かが辿り着くのを考えると、ちょっと笑えるわね」
「落ちたところを想像してやるなよ・・・そこまで行けるなら、探知ぐらい忘れねぇだろうしな」
なんとなしに話しながら、アンナがデカい剣を雪へ刺して回ると。
「あっ! ここ!」
明らかに軽い動きをする場所に遭遇。
周りの雪を押し込むように掘ると丁度、割れ目の端が顔を出す。
「ここから向こうまで、ずーっと穴が開いてるわ。かなり深いわよ」
「氷の崖だね。知らずに落ちたら大変だ。間で挟まればまだしも、判断が遅れると装備の重さも相まって、武器を壁に突き立てたくらいじゃ止まれないかもしれないね」
「うわあ・・・これ、得意魔法が炎の僕なんかはすごく困りますね。下手な魔法じゃ溶けるだけですし、壁を破壊したからって落下の速度が変わるわけじゃないので、床を作っても大怪我ですよ」
「回復担当の後衛が落ちたら悲惨と言わざるを得ません。装備の中に頑丈な杖でもなければ生存は厳しいでしょう」
「そう言いながらも全員、誰も自分の心配をしてないんだから質が悪いな。いない誰かの想像は辞めて、ここを降りる準備と場所決めをしよう」
各々が覗き込んでは好きに感想を述べる大会をクライフが諫め、慎重に割れ目の縁を掘り当てながら移動する。
「探知にはなにか、引っかかったりしないか?」
「これってのはねぇな。深すぎて底も見えねぇし・・・」
「でも、降りやすい場所は何箇所かあったわね。途中に休憩地点になる広い足場があるところには目印を置いたでしょ」
「そうなると・・・この割れ目はどこまで続いてるんだ?」
「まだもうしばらくだな」
「直線距離で200Mくらい? ここはまだ半分ってところよ」
端は狭くて降りれないが、それ以外はほぼどこからでも通れるほどの隙間広いとこなら装備を付けた状態の人間2人分でも余るほどの割れ目だ。全長もそれなりに大きい。
「余り離れすぎない方がいいか・・・それとも、逆に離れるべきか」
「離れると目的であるドラゴンまでが遠くなるけれど、近ければ精神魔法で対策されている恐れがある。悩ましいね?」
「一度降りてから底を調べた方がいいのかもしれないな」
クライフは俺とアンナの探知結果を聞きながら、ジーナと相談して降下を早める決断を下した。