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暗礁

 暗い。

 入り口に立った時点でそう思うほど、見通しの悪い穴が俺達を待ち構えていた。

 目を凝らしたぐらいで見えれば苦労はないが、


「厄介だね」

 そう零したのはジーナだ。


 他の誰でもなく、この場で・・・あるいは皇国で最も魔法に精通する人間が零した言葉。

 見通しが悪い――どころではない。


「この空間には”見えない”魔法が仕掛けられている。私達・・・というよりは君への対策だろうね?」

 顔を向けながら褒めるように言うが嬉しくねぇ。面倒この上ないからな。

「どうにかならねぇのか?」


「難しいね。この通り、光の魔法も無意味だろう? あくまでもこの空間に掛けられている魔法が精神へと影響している証拠だよ。心因的な失調症だと思えばわかりやすいかな? 人体に不可能を押し付けられているようだよ」

 言いながら飛ばした光の魔法は、明るく光を放ち続けてはいるが、周囲を照らしたりはしない。


 ただ光点として黒い空間に浮いているように見える。

 アレじゃぁ白い点にしかならねぇ。


「フェリシア君の結界はどうだい?」

 言われて一歩踏み出すものの、

「駄目ですね。結界では周りを見えるようにはできないでしょう。自分自身の姿を確認するのが関の山です」

 すぐに退避し首を振る。


「探知なら中の形も正確に分かるんだし、それでいいんじゃない?」

 アンナが探知魔法を穴倉内部へ走らせて確認しながら提案するが、

「視力を奪うことがができるんだ。触覚や聴覚をも奪うことだってできると考えるべきじゃないか? 1つだけなら、その都度方法を変えればいいけど、同時に複数の感覚を奪われたら、俺達は戻ってくることさえできなくなる」

 クライフが冷静に否定する。


「精神魔法の影響から脱するには、一般的に外的要因が必要になりますけど、対象が空間だとそうもいかないですしね。いっそこの穴そのものを変形させられたりすれば、影響を消せるかもしれません」

 魔法使いとしてエリックは閃きを得るが、

「問題はそれだけの魔力をどうするかっつー話だな」

 同意することはできねぇ。


 例えそれが叶ったとして、相手が同じように地形を戻すことで対抗してきた場合、先に魔力を使い切るのは多分こっち側だ。

 変形と同時に敵を露出させ、相手が認識するより早く決死の一撃を打ち込めるなら有りだが、そもそも殺してしまえるかも怪しい現状じゃぁどうにもならねぇ。


「君の魔法はどうだい?」

「次元をズラすアレか? 無理だろうな」

「理由を聞こうか」

「この穴が下に続いてるからだ」

 確認のためにアンナへ向けば、頷きが返る。

 さっきの探知である程度の形状は感じ取れたようだ。


「あの魔法にそんな欠点が?」

「アレはお前にさえ、どういう原理なのかもわかってねぇ魔法なんだろ? 応用にも限界があるぞ。あの魔法の特徴は、お互いに姿が半透明に見えて、且つ干渉できないってことだ。それは無機物や有機物、動と静に関わらず、効果中には一切の影響を受けない。ただし――」

 それは横方向、あるいは平面方向に限る。


「上下については別だ。あの魔法は空中でも発動できる。代わりに、発動と同時に地面でも出来上がってるのか、それより下へ移動することが不可能になる。同じように、飛び上がることはできるが、最初の高さより高い位置へ着地することはできねぇ」


「なるほど。つまり、坂道や階段なんかも使えないわけだね」

「そういうことだ。一々解除して進む手もあるが・・・」

「魔力消費と錯乱の危険を孕んでまでやることじゃないね」


 真の暗闇は人の心壊す。

 自身の証明さえ於保つかなくなるからだそうだ。

 まぁ自分の手足さえ見えなくなるんじゃ、死んだんじゃねぇかと錯覚してもおかしくはねぇ。

 側に誰かがいる状況から一転すれば尚更だろう。


「いや全く、厄介だね」

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