無力
『ただの歴史だ。汝らが気にすることではあるまい』
なまぐさい話を切り捨てるように龍王は続ける。
『結局は均衡に寄るのだ。人の一生は短い。故に数多く残存する必要があり、そのためには活動範囲が不可欠となる。しかし我ら竜族は長く生きる。力や役目を継承する都合で短命な龍王であっても、人と比べれば何倍も長く』
長命種は繁殖機会が少ない。
原因は諸説あるが、その事実は自然界でも存在している。
そのせいか個体数が少なく、絶滅を噂される種も多くあるとか。
『その上で、我らは人類などとは比べ物にならぬほどに強い。中には例外も居ることは認めるが・・・それでも。ブレス1つで町や国を滅ぼし得るのは確かで。その強さを恐れ、あわよくば求めるのも理解できる。我らには言葉があり、それを介する知性さえ持っているのだから』
「なのに、均衡の取り方が距離を置くだっていうのは・・・・・・」
『許容できるかはまた、別の話なのだ。能力を劣るものを見下すのは自然なことだ。対等など、真の意味では存在しない』
「真理だな。正に今から、上下を付けに行こうっつー俺達へ刺さる言葉だ」
クライフの呟きに龍王が吐いた言葉は、現状を表現するにも相応しい。
理解こそできても、納得はできず。許容など遥か遠く。
言葉の力には限界があることを知って、それ以外に頼る。
『我らの関係も対等ではなかろう?』
「それはコキ使われてることへの陳情か?」
『その通りだ。我は龍王だぞ?』
「ハッ! 情けねぇ限りだな。劣等種の人間なんぞに負けるから」
『返す言葉もない。しかし、だからこそ頼ることに負い目もない。汝が勝てぬならそれまでだ。人の世は諦めるが良い。我らも恥を雪ぐことを諦めよう。例え彼奴が神を気取ろうとも、その身は不死へと至るまい。加護を奪われるよりは逃げ延び、耐え忍び待つとするさ』
だから気負いするなって言いたいのか?
激励にしても下手過ぎるだろう。
「負ける気はねぇよ」
『ならば、勝ちの目は見つけられたのか?』
「・・・・・・・・・」
そう、殺す以外の勝利条件は未だに見つからないまま。
『汝であれば、殺せぬわけではあるまい。その覚悟は信じているぞ』
打って変わって、まるで負ける絵を想像してないような口振り。
いったいなにを知ってるつもりなんだとも思うが、それも信用だと考えるなら悪い気はしねぇさ。
『他に気になることはあったか?』
沈黙による間を機に、話題を変更する龍王。
「そりゃ気になることなんか他にもいっぱいあったけど、こんな訊きにくい雰囲気にしといてよく言えたわね?」
「私としては雰囲気など気にしないのだけれど、それ以前の問題だからね」
アンナの鋭いツッコミをもヒラリと躱すジーナでさえ、覆すことのできない問題。
「そろそろじゃないかい?」
隙間から指差す先には、北大陸が目下まで迫っていた。
『話へ夢中になり過ぎたようだ。準備は良いか?』
「良くないと言ったらどうなるんだい?」
広がる無音を合図とするには無理があった。
にもかかわらず、無言のままに落下が始まる。
視界は次第に赤へと染まり、龍王の姿は火の弾へと変わっていく。
互いに問えば、きいただけと答えるだろう。
何にきいたのかは答えねぇだろうがな。




