開始点
「・・・・・・殺せぬか?」
「今の条件じゃ厳しいな」
「自然と決着は生死によって別れるものだと思っておったが・・・」
「一定以上の力を持ってるならそれが普通だ。力ってのが腕力なのか、技量なのか、魔法や武器の強さなのかは場合に寄るだろうが、いずれにしても。会話が通用しねぇなら他に方法がねぇからな」
「その会話を無理やり通す手段が、肉体言語こと暴力であるにもかかわらず、力の差で納得させられぬ状況――なるほど、確かに勝ち筋が見当たらぬな」
「だから困ってんだろうよ」
これだけ話を進めても、またしても振り出し。
終始、問題になるのは精神魔法による北大陸の支配。
これをどうにかしねぇ事には勝ち負け以外の損得が生まれて、それが俺達にとってはとんでもなく損になるって予測ができてる。
そんな状態で戦うことに意味があるのか? なんて、言うまでもねぇから話が先に進まねぇ。
一応。皇王陛下を説得すれば、討伐したドラゴンに代わって北大陸全土を支配するって手もなくはないが・・・・・・現実性に欠ける。
内乱騒ぎで皇国軍も地方領主も疲弊しているこの状況で、いくら隣国ガルドナットが協力的な同盟国とはいえ、飛び地で持って治められる規模の土地じゃねぇ。
それに、北大陸へ渡るための岸が他国にしかねぇのも、いずれ大きな不和の原因になる。それこそガルドナットは皇国に吸収されるんじゃねぇかって恐怖を抱え続ける。新しい火種にはもってこいだな。
そうでなくとも亜人奴隷だのって問題も抱えてるのに、下手は打てねぇ。
あの国も吸収消化するには重すぎるんだよ。
「であればもう、当該者に直接解放させるしか手はないが・・・」
「すると思うか?」
「分からぬ。奴の思考、目的、手段、その全てが理解不能なのだ。我らにはなにがそこまでさせるのか・・・それが分からぬのだ」
「目的は復讐なんじゃねぇのか? 殺された家族の仇が居ただろ。確か」
「それなのだがな。その仇は既に死んでおるのだ」
「死んでる?」
「そうだ。汝からの連絡を待つ間に行った調査で分かったのだが、自殺していた。やってしまったことへの罪の呵責に耐えかねたのではないかと我らは結論付けた」
「・・・・・・・・・」
罪を苦に自殺?
自分の犯行を自慢するような輩が?
「どうした?」
「そいつが死んだのはいつ頃だ? 正確には、事件が起きてからどれぐらいの時間がたってからだった?」
「正確な時期まではなんとも言えんが――・・・事件が起きてからであれば、おおよそ50年といったところか」
確か通常のドラゴンの寿命が1000~1200年で、龍王がその半分。
人間の寿命が60年前後と考えれば、体感時間は20分の1で2年半換算。
その程度の時間で、なんの外的要因も無しに心を入れ替える――なんざ、ありえねぇ。殺しを手柄のように宣う奴なら尚更だ。
「――ッ‼ マズい‼ 北大陸へ向かわせた下っ端を今すぐ呼び戻せ‼‼」
自殺は敵の常套手段だった。
精神を乗っ取り、自ら死を演出する。
それは人相手にだけではなく、
「・・・駄目だ。反応がない。これは、いったい・・・・・・」
不安は瞬く間に的中する。




