心理解説
「何か対処するつもりか? 決戦の役に立つとは思えんが・・・?」
「後顧の憂いを絶つってのは、物事へ集中するための準備でもある。決戦に勝ったとして、北大陸諸国の状況が改善しねぇなら、件のドラゴンの処理に手間取るだろ」
殺して終わりにするのが一番楽だが、精神魔法が除去できねぇならそれは選べねぇ。
これ幸いと大陸全土を掃除してまるっと乗っ取るならまだしも。放置なんぞした日にゃ、どこかの誰かが私欲に動くのは明白。
個人でなら精々人の尊厳を踏みにじる程度だろうが、団体や国が出張ってきてみろ。超巨大人体実験場になっても不思議じゃねぇ。
元凶が俺達だって割れれば、その咎の一端を皇国が被ることになるのも目に見えてるしな。
「一理はあるか・・・とはいえど、精神魔法か」
「そういえば、龍王は魔法の各属性を司るんだったよな? 精神魔法を管理してる奴はいねぇのか?」
「分かって聞いておるのだろうが、居ると思うか?」
「まぁそうだろうな」
「その候補だったものがこのような事態を引き起こしているのだ。決着がつかん限り、後継も立たん」
「先代は?」
「とうの昔に亡くなっておる。今は特別な魔法で記憶だけを保存してある。皮肉にも、この特別な魔法も精神魔法だというのだから、事の重大さも理解できよう?」
早いところどうにかしねぇ限り、龍王の継承にも支障が出るってことか。
そっちの事情なんざ知ったことじゃねぇが、協力を引き出す情報にはなる。
「ふむ。先程ここへ下りる間際、バフォメットが飛び立つのが見えた。アレの角や爪は精神魔法を強化する媒体になるはずだが・・・狩るか?」
「そんなもんが何の役に立つ? 大陸全土に波及する精神魔法に対抗できるか? それとも、それを使ってお前らが解除してくれるのか?」
「ううむ・・・・・・大陸全土は不可能。我ら全員であたれば、あるいは? いやしかし、賛同が得られぬか・・・」
「にっくき目の上のたんこぶを処理するのにか?」
「汝が1頭ずつ説得していくのであれば、この問題は解決する。要は人間如きのために――という、浅はかな増長のせいよ」
「いっそのこと試金石にしてやってもいいが・・・・・・」
「勘弁してくれ。そうなっては我々ドラゴンの今後にこそ、憂いが残る」
それこそどうでもいいと思うんだがな。
「そうなるなら敵は殺せねぇし、殺せねぇなら戦い方を考えなきゃならねぇ。負けを認めさせる方法が必要だ」
「力の差だけではいかんのか?」
「生きていたいと思ってるんなら、それでどうにでもなるけどな」
「そうではないと・・・? 人間という別種族まで巻き込んだ、これだけの大事件を起こしておいて、死んでもいいと?」
「命の勘定をしてねぇからこその大胆さとでも言えばいいか? 失敗したら、後は野となれ花となれ――それぐらいの気概は感じたな。それだけの時間と手間暇をかけて行動してたはずだ。そうなると、ここは天王山。生きてもう一度やり直すか、死んで人生ごと終わらせるかの、2つに1つだと思ってるだろうよ」




