変化する店構え
商店街を抜けた先には、競い合うように工房が軒を並べていた。
その圧巻の店構えが郷愁を誘う。
いつかの景色を重ねるように、いくつか見覚えのある店頭が。
「工房の数も増えたみたいだな」
「これだけわかりやすく集まっていると腕試しもしてみたくなるんだろうさ。どこかが店を畳んでも、居抜きで次が引き継ぐように新しい店になってるね。それがいいことなのか断言はできないけれど、土地にも限りがあるのだから、区画整理で一挙に集中したおかげで、辞めるに辞めれない・・・という状況だけは抜け出せたようだよ」
「客入りの表面化は人気の偏りにも貢献しちまうからな。逆を言えば、客入りの少ない店はなんとなくで客を取られ、収益がでなくなる」
もし全く同じ実力の店が左右に並んでいたとしても、両方の店が同じように繁盛することはない。
客はあらゆる面で比較して、どちらの店を贔屓にするかを決める。
品質、値段、仕上がりまでの時間や接客、中には風水だので考える奴まで出てくるだろう。
そうして、客入りで負けた店はなんとなくで避けられるようになり、新規顧客の獲得が難しくなることで、利用者の死亡や引退によって客を失う。
そしてまた客入りが少ないことを理由に、新規が離れ・・・という悪循環が出来上がると、その店が盛り返すのは難しくなる。
工房は道具屋なんかと違って、品質や仕上がりが生死に直結するため、特に客入りを気にする連中が多い。
客が少ないのは利用者が死んだかもしれないから、って強迫観念のせいだ。
「そんな中でも、見知った工房があると安心するかい?」
ジーナがそう言いながら視線を飛ばすのは工房ムー。
変な名前の工房だ。しかも、その名前の割には店舗もデカい。
「ま、干されてねぇようで何よりだ」
以前、俺が利用していた工房ムーは今よりずっと小さく。数人で入ると、置いてある商品のせいもあって袖が擦り合うほど狭かった。
工房主の名はアルガム。いい歳した髭面のおっさんだ。
「最近はよく目が霞むと文句を垂れながらも、しつこく職人として歯を食いしばって、しがみ付いているよ。会っていくかい?」
「早々に諦めちまった人間としては顔を合わせ辛いんでな」
笑って工房主の近況を話すジーナに断って先へ。
工房の奥から、何かを作ってるんだろう音が聞こえてくるのが背中を押す。
やるべきことがあるだろと。
他にも何件か素通りして先へ進むと、今度は酒場が目に入り出す。
機能美にしたって効率的すぎるんじゃねぇのか? なんて、くだらねぇ感想が込み上げる。
それと同時に、店先へ掲げられたギルド印に苦笑する。
工房でも幾つも目にしたが、この飲み屋街には出してない店が無いほど。
あれは協賛の印だ。
提携といってもいい。ギルドと連動して店を経営してるって証で。
生きて帰った冒険者連中が手に入れた金で英気を養う場所として存在しているって主張でもある。
他にも、依頼を張り出してたり、素材の買取りをしてたり、貸倉庫をやってたり、ギルドからの要望にも応えている証拠とも言える。
が、これだけの数が店先に掲げられているのは、ここを含めても数える程。
露骨なほどの囲い込みというか、新参者を惑わそうと意図的にやってるんじゃねぇかとさえ思う。
それがまた新鮮に受け止められた。懐かしさを感じながら。
そうこう言っている間に冒険者ギルド:サルベージ支部が見えてくる。
支部より向こうは宿屋が並んでるはずだ。
とはいえ、溜まり場になってたのは宿じゃぁない。
2階こそ宿にはなってたが、1階に広がる酒場はデカく。
冒険者ギルドの真向かいにあった。