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お邪魔なのは

「何を親の前でイチャイチャベタベタと‼‼ 貴様には恥という概念がないのか⁉⁉」

 ズンズンと近付いて来るおっさんは、近くに寄っても小さかった。むしろ、余計に小さく見えた。


「婚約者同士が仲睦まじくして何が不満だい? 彼が私の婿になれば、マーラグ家の将来は安泰だよ? なにせ、彼は陛下からの覚えもいいからね」

「だから婚姻関係にはねぇよ‼」

 頑なに関係を誇張するジーナに負けないように釘を刺す。

 なし崩しにされても困るからな。


「それが気に喰わんと言っているだろう‼‼」

 下から上へ、指までさして睨めつける。

 威勢こそいいものの、見た目はギャグにしても滑稽極まる。


 余りに尊大なその態度は、未来の皇王を夢見るライザードのソレすら想起させるが、アイツにも皇族としての気品ぐらいはあったなと。比べて感じる。

 こんな奴と比べるな‼ という声が、どこからともなく聞こえて来る気がしたが、気のせいだろう。


 それにしてもどう反応するべきだ・・・・・・?

 ああいや、それより――ライザードか。


 今後を考えると、俺はもう教師として生徒と向き合うことはねぇのかもな。

 バロンのこともある。学園は未だに閉鎖されたままで、教育や学業に支障はねぇのか? なんて事まで頭をよぎるが、そこは良くも悪くも貴族学園だ。足りないなら例外的に時間を増やすでもやってのけるか。

 なんて。


 全く別の事ばかりに思考が引っ張られる。

 ジーナとの付き合いでさえ考えさせられてるってのに、その父親への対応なんざ果てしなくどうでもいい。今すぐにでも解放されてぇ。

 どうにも散らばる意識の中、


「なにがどう、気に喰わないというのかな?」

 俺が無視を決め込んだと見たのか、ジーナが切り返す。


「そいつの態度に決まっているだろう‼‼ マーラグ家は公爵位だぞ⁉⁉ 皇族の次に偉いのだ‼‼ それを‼‼ 婚姻を有難がるどころか、煙たがるなど‼‼ 許していいはずがないだろう‼‼」

「それは私もそう思うがね。しかし私は既に公爵位を継承している。爵位を持たない彼が、いきなりそんな上の爵位の伴侶に収まるなど、恐れを感じて不思議ではないだろう? むしろ、慎重であると賞賛すべきじゃないかな? 公爵という位に敬意を払っているとさえ言えるはずだ」

「そんな風には見えなかったぞ‼‼ ただ単にジーナ‼‼ お前が煙たがられているようにしか見えなかった‼‼」


「そうだとして、それは私の問題だね。元当主殿には関係ないと思うが?」

「関係あるに決まっているだろう‼‼ お前は私の子だ‼‼ 由緒正しい血脈に生まれ、魔法研究に才を持ち、界隈にその名を轟かせ、権威に満ち溢れた自慢の娘だ‼‼‼」

「そう言ってもらえるのは光栄だね? けれど、それらは私にとって大した意味を持たない、当たり前の事実だよ。ましてや、元当主殿には到底、関係するとは思えないのだけれどね?」


「そんなことはない‼‼‼」


 今まで以上の声を張り上げ、これでもかと背をそらし、

「そんな娘を生み、育てたのだぞ‼‼‼ その親はもっと偉いのが当然だろう‼‼‼ つまり、この場においても一番偉いのはこの私だ‼‼‼ 分かったら私の言うことを聞け‼‼‼」

 ふざけ倒したことを言う。


 なんつーか、違和感があったんだよな。

 自慢の娘が冷たくあしらわれていることに憤慨してたってのに、親に対しての尊敬をジーナの態度から感じなかったところに。

 その原因がこれか。


 確かに尊敬には値しねぇな。

 見下げるというか、見下すというか、見下ろすにとどまらねぇな。

 侘しい頭にカツラを乗せられねぇのはどこまでも滑落していっちまうから、なのかもしれねぇな。

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