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お邪魔する

 なんの断りもなくマーラグ公爵の屋敷へ入るが、現当主が隣にいるからか止められるようなことはない。

「しかしそれだと自然発火はどうやったんだい? さっきの説明じゃ魔法の暴発なんか起きない気がするんだけどね?」

「命令の仕方が違うだけだ。”燃やせ”と”燃えろ”は似てるが違うだろ?」

「ああ! なるほど、そういうことか。対象から発動させるか、対象へ発動させるかの違いか・・・聞かされれば分かる程度の簡単な違いとはいえ、君も酷いね? 普通は思いついても、中々実行できないだろうに」


「お前ならどうだ? やらなかったって言えるか?」

「そんなわけがないだろう? 研究に犠牲はつきものだよ。それに、事情はどうあれ敵なんだろう? 実験を躊躇する理由にはならないね」

 物騒で残酷な話をしながら歩くせいか、使用人からの視線が怪しい。

 ただそれでも、この変態が同じ答えを出すことに、少しばかり安堵する。


 非道なれど免責である。

 存在してはいけないが、存在してしまう理念。

 技術の進歩や発展のため、見過ごさざるを得ない事実。

 戦争や研究に毒されている価値観であっても、理解を示されれば平穏は訪れる。

 さもしいかもしれねぇが、それも業だ。


「ふぅ・・・鬱陶しいね」

 唐突にジーナが立ち止まり、言う。

 まさか心の中でも読まれたか? と一瞬の緊張が走るが、

「そんなところに居て隠れているつもりかい?」

 物陰――とも言えないような場所から、なんつーか・・・小さいおっさんが恨めしそうに睨んでいた。


 俺とジーナの身長差が役10cmくらいか、そしてそのジーナとおっさんの差がまた10cm程度。

 俺からは少し離れた位置にいるおっさんの頭頂部がギリギリ見えるかどうかってところで、更になんとも言えねぇのが、その頭頂部が少々寂しそうにしてるところか。


「我が家に居て隠れる必要がどこにある!」

「それなら、もう少し堂々としたらどうだい? とはいっても、ここはもう私の家なのだけれど・・・」

「ええい! 好き勝手言いよってからに‼ 私は認めんぞ‼」

「何を認めないというのかな? 元当主殿?」

「全てだ‼‼ ジーナッ‼ お前が当主になったことも‼ その男との結婚も‼ 私は絶対にッ‼ 認めんからなッ‼‼」


 ワーワーと喚く小さいおっさんの言動から、アレはジーナの父親で前マーラグ公爵のユージーンで間違いなさそうだ。

 常々思っていたが、名前負けが激しいな。


「元当主殿に認めて頂かなくとも、私の公爵位も結婚も。皇王陛下のお墨付きですので、ご心配無用です」

「嘘をつくなぁっ‼‼」

 これでもかってぐらい目ん玉を丸くして指摘するユージーン。


「そうだな。公爵位はともかく、婚姻について、陛下は触れようとはしてなかっただろ。お前が勝手に言ってるだけだ。俺も認めてねぇぞ」

「まったく・・・ゼネス。話をややこしくしないでくれたまえ」

「ややこしくしてくるのは、いつだってお前だろ」

「そんなことはないだろう? 今回だって、君のわがままでこうなったんじゃなかったかな? それとも、私の協力なしで君の思惑通りに事が運んだかい?」


「・・・・・・可能性だけならあっただろ」

「可能性だけは、ね? 0じゃないからそれでいい――だなんて、現実主義の君が言っていいのかな?」

 早急に話題を逸らすことには成功したが、雑に進めたせいで面倒な絡まれ方をした。

 ネチネチと自分の有用性を主張してくるジーナを損在に躱していると、


「私を無視するなぁああああッ‼‼‼」

 ちっさいおっさんがでっかくいった。

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