事前準備の裏側
『ま、まぁ話はわかった! ドラゴンの件も一任する。其方ばかりに重責を背負わせることに気を揉んでいたのだ。其方がそうしたいというのであれば、もう止めはしない。もし必要なものがあれば言うのだぞ。支援は惜しまぬ』
『では、1つだけ――』
『――そのようなことは、私に聞かなくともわかっておるのではないか? 断ったところで、どうにもならぬだろう。好きにするがいい。だから、頼む。ジーナを連れ帰ってくれないか⁉』
いいや、まだ――ッ‼ と陛下へ迫るジーナを引き剥がし、謁見間を後に。
今はマーラグ公爵の屋敷へ向かっている最中だ。
「もう少しで陛下をこちら側へ引き込めたというのに・・・よくも邪魔をしてくれたね?」
「陛下たっての希望だったからな。っつーか、手ごたえを感じてたのか? あれで・・・」
「陛下は強引に迫られるのに弱い。というのは皇后様から聞いていたからね。きっと、あのまましばらく粘っていれば、折れてくれたと思うよ?」
悪びれもせず国の頂点の心を折ろうとしてやがったのかと呆れていると。
「それより、あそこまでする必要があったのかな?」
「なんの話だ?」
「嘘をついてまでドラゴンと決着を付けに行こうとした理由だよ」
「人聞きが悪いな。嘘は、ついてねぇよ」
「そうだね。出来ないことを隠しているだけなのだから、嘘ではないのかもしれないね。けれど、陛下が感じた安心は、紛れもない嘘なわけだ」
「・・・・・・・・・」
それはその通りだ。
誇大させた成果で無理やり納得させる形で協力を得た。
「最後の魔法。どうして陛下の魔力を使わずに私の魔力を使ったんだい?」
「その方が分かりやすいからって言ったら信じるのか?」
「まさか。君は私に頼りたくないと思っている。私としては心外だが、男の矜持だと思えば悪い気はしないよ。けれど、あの場面はどうだ? 可能なら陛下の魔力を使ったはずだ。なぜなら、私に頼ることなく、陛下自身も体感を得られたはずだから。説得力でいうなら、その方が合理的だろう?」
返す言葉はない。
「だが、君はそうしなかった。あまりにも安易に私を頼った。つまり、他に方法がなかったわけだ。その条件を聞いている。私にとっても重要なことのはずだからね」
「どう重要なんだ?」
「ドラゴンに勝つための計算に必要だろう? その条件さえ達成できれば、陛下へ説明した通り、確実に勝てるんだからね」
「連れて行く気はねぇが・・・」
「置いていかれるはずがないだろう? そもそも、龍王の方のドラゴン君へ連絡できるのは私だけだよ?」
はぁ・・・と、ため息をつくしかない。
「正確な条件についてはわからねぇが、恐らく心理的なもんだ」
「心理的・・・距離とか壁とか、そういうことかい?」
「たぶんな。許可ってほど明確な何かが必要ってことはないんだが、敵の魔力を使って魔法を――ってのは、今のところ上手くいってねぇ」
「そんなことだろうと思っていたよ。あそこまで君が急いていたのは、そういう不安要素を露呈させないためだね?」
「交渉は長引くと面倒になるからな」
「そうだね。決断を先延ばしにしだすと、決まるものも決まらなくなってしまう。かといって、別案がないわけではないのだろう? そうでなければ、あそこまで強気に交渉などしないはずだ」
「魔力を吸い出すだけなら問題ねぇんだ。それと魔法道具があればなんとか。魔法道具に意思や気持ちなんざねぇからな。安定して魔法を発動できる。間に魔法道具を経由することで、魔力酔いも抑えられるだろう」
「試したことは?」
「ない」
「だったらそんなこと、どこで気が付いたんだい?」
「ルーヴェント子爵を捕縛した後に思いついた。気付いたのはワンダーゴーレムと殴り合った時だろうな」
「随分と間が空いているね? それに、だろうっていうのは?」
「最初は違和感があっただけで分かっちゃいなかった。ワンダーゴーレムの一部が、なんで錆びてたのか」
「そういえば、一連の事件を調べている時にそんな話を聞いたっけ・・・」
「結論から言えば、起動している魔法道具の魔力を吸い上げる場合、発動している魔法の属性と同じような効果を持つことがルーヴェント領で明らかになった」
「領主屋敷の中庭で起きた自然発火は、そういう手段を使っていたんだね。ということはつまり、逆に――」
「魔法に必要な属性を与えた魔力を送って、吸い上げた魔力とぶつけることで増幅させれば、狙った魔法を発動させることが出来る」
「その合流点が魔道具というわけだ」
「お前を使っての次元魔法もやり方は同じだ。一々魔力を吸い上げなくてもいい、ぐらいの差しかねぇよ」
「誰かや魔道具と君の軌道上で魔法を発動させることは出来ないのかい?」
「軌道自体は操作できるが、ぶつける量に差がありすぎる。同程度の魔力を送りつけるとなると、結局魔力を回復するハメになるな」
「そうすると魔力酔いは避けられないか――意外と使い勝手が悪そうだね」
仕方なく手の内を明かしながら歩くうち、マーラグ公爵の屋敷に到着する。




