事前準備4
「私は・・・其方らの関係について邪魔だけはせぬ。それで勘弁してくれんか?」
「陛下になら御助力を賜れると、そう思っていたのですが・・・残念です」
一悶着を終えて、陛下はなんとか立場を守ったようだ。
一国の王の威厳。
確かに見届けさせていただきました。
「それで・・すまない。ゼネスよ。なんの話だったか?」
「私が最近身に着けた変わった能力について――です」
「あぁ、そうだ。そうであったな・・・して、次元魔法と超越であったか? その2つでどうやってドラゴンと渡り合う?」
「いえ、まだ途中になります」
「他にもあるのか?」
「はい。といっても、既に体験されたかと思いますが・・・」
「既に・・・だと?」
「そうです、今も」
陛下は少し首をかしげた後、周りと自分を観察する。
「お気付きいただけましたか?」
「降参だ。答えはなんだ?」
「私から陛下へ、魔力を送った能力です」
「魔力を送る・・・っ! そうか! そのような魔法は今まで発展してこなかった!」
「共同で行う魔法の発動などもありましたし、どうしても相手に触れる必要がありましたからね。それならば、魔力回復薬を使った方が速いという理由で研究もされてきませんでした」
「そう言うということは・・・」
「私は他者に限らず、魔法道具からも魔力を吸い上げる事ができます」
「おおっ! それならば魔力が尽きるどころか、相手の魔力を使い切ることも出来るということだな⁉」
「おっしゃる通りです。といっても、吸い上げ過ぎしまうと魔力酔いを引き起こしてしまうのですがね」
「駄目ではないかッ⁉⁉」
「いいえ? さっき陛下がおっしゃったようにすれば、なんの問題もありません」
「私が? なんといったか・・・」
「相手の魔力を使うのです」
そんな会話をしている間に、ジーナが魔法道具を取り出している。
「これは、そこのゼネスが過去に愛用していた罠の魔法道具に改造を施したものです」
手に持った道具の説明をしながら、俺へと手渡す。
「魔力は?」
「もちろん、充填済みさ」
本当に用意がいいもんだ。
どこまで俺の意図を読んでいやがったのか・・・。
「今の陛下には、私の魔力量が残り少ないことが感じ取れるかと思います」
「うむ、そうだな。其方の魔力は今、私の下に集まっているためだな」
「そのとおり。ですが、この罠の魔法道具には事前に魔力が込められているため――」
誰も居ない方向へ罠を投げ、魔法を起動させる。
すると、ズアアァァ‼‼ と一瞬にして影が広がり、そのまま消える。
魔法道具が床に落ちたコン! という音を区切りにして、会話へ戻る。
「このように、ほとんど魔力を消費せず、大きな魔法を使う事が可能です」
「今のは闇の魔法か?」
「はい。足止めの罠ですね。仕掛けた付近を踏んだ相手の影を縛って足止めをします。今のように投げて起動することもままありますが・・・少々強引な使用法になります」
「それと同じように・・・他者を利用して再現するというのか?」
「今回はマーラグ公に協力願います」
「ああ、いいとも! 君の好きなように私を使ってくれたまえ? 請求は後から確認してくれればいいさ!」
「・・・あまり気は進みませんがね」
「私はもう、何も言わぬぞ?」
藪を突くつもりはないと、口を紡ぐ陛下を前に。
今度はジーナの魔力を使って魔法を繰り出す。
俺が魔法を使っていることが確実に伝わるよう、発動させるのは直前に見せた次元魔法だ。
さっきと同じように、自分の次元をズラし半透明にする。
すぐに会話へ戻るため、発動時間は極わずかでいい。
「その魔法はまだ、其方にしか扱えぬのだったな?」
「どうでしょう? マーラグ公の研究により発言した魔法ですので、天才と名高いマーラグ公ならば、もしかすれば・・・」
「それは意趣返しのつもりかい? 私を含め、まだ誰にも使えやしないよ。そんな魔法はね・・・けれど、いつかは人類のものにしたいところだ。悪用には注意しなければならないとも思うがね」
「なるほど、偽りはないようだな。マーラグ公・・・ジーナからの圧が無くなっている。一安心だな」
はっはっは! と笑う陛下は意外とお茶目なのかもしれねぇな。
「ほう? ではまだ交渉の余地があると・・・?」
当然、それを見逃すほど変態は甘くはねぇんだが。




