事前知識
「そうですね。そのためにまずは、情報を整理しましょう」
「情報の整理とは、どういうことだ?」
「ドラゴンがなぜ強いか・・・という話です」
「敵を知らねば――ということか」
「そのようなものです。その強さを知れば、また弱さも見えるというもの」
敢えてこう説明するのはドラゴンの弱点が正にそういうものだからだ。
「ならば魔法研究の一環として、ドラゴンについてもある程度調べた私から。説明させてもらおうじゃないか」
と、なぜかジーナが張り切って前に出る。
「まずは極めて単純な身体的優位性。体の大きさもさることながら、鱗や牙の強度が驚異的だ。人の肌や歯とは比べ物にならないほど固い。鋼鉄の武器を以ってしても、生半可な腕では傷つけることすら難しい」
「実際に傷を付けるにはどれほどの技量が必要なのだ?」
「・・・物理的な方法を取るならゴルドラッセ――北の軍団長程度の技量が必要でしょう」
力量がわかりやすいように陛下の知る人物の名前を出す。
「私はその人物のことをよく知らないけれど、君が言うのだから間違いないのだろう。魔法の専門家として、魔法で傷を付ける場合に言及するならば、いわゆる上級魔法ならどれを使っても問題ないでしょう」
「なるほど。魔法攻撃であれば比較的容易に傷をつけることが可能なのだな?」
「その通りですよ。陛下。それについては魔法研究家の私が保証いたします。もちろん。肉体的に、という話に限って・・・ですが」
「どういうことだ?」
「次に、ドラゴンの魔法技術についてご説明します。ドラゴンは人と比べて非常に高い知能を持つと言われています。それは知識を直接、継承する術を持っているからだそうです。その真偽についてはアドレスにて確認し、事実であることが確定しました」
「知識を直接・・・それは記憶の継承ということか?」
「人格ごとのようでした。といっても、それは龍王だから。であって、その任につかないドラゴンまではわかりませんがしかし、件のドラゴンは龍王の候補でもあったらしく、もしかしたら――という可能性は拭えないかも知れません。少ないとは思いますが」
「用心はするに越したことはない。その場合・・・どうなる?」
「これは魔法学になりますが、基本的に身体の大きさと魔力量は比例します。そうするとドラゴンの身体はとても大きく、それに伴い魔力量も人とは雲泥の差。龍王は属性魔法を司るとまで言われていることを考慮しますと、その技術は我々人類のそれとは隔絶していると言ってしまってもいいでしょう」
「待て、それでは・・・」
「陛下のご想像の通り、肉体的には魔法で傷付けることが可能であっても、実際には非常に強固な魔法防御によって守られ、当たることはまずないかと。アドレスで見た龍王は正に壁の如き守りをしていました」
「武器の刃が立たず、魔法も利かずでは勝ち目がなかろう・・・と、この話を切り上げてしまいたいのだがな」
「陛下と私の前にはそのドラゴンに勝った人物がいますからね。その過程を説明していただきましょう」
さぁ! 場は整えたぞ! とでも言いたそうなドヤ顔が鬱陶しい。
「私にはドラゴンの固い体皮に傷を付けるだけの技量も、強固な魔法防御を打ち破るような魔法もありません。攻撃手段の多さならば、多少誇れる所もございましょうが、それでどうなるわけでもありません」
一応の前置きとして、そういう正面からの対策ではないことを宣言しつつ、
「私には、少し前より発現した特技とでも言いましょうか・・変わった能力を身につけまして、それを利用することでドラゴンの想定外をついて、倒してしまおうかと思っている次第です」
実演のための準備を始める。




