決意表明
「報告は聞いた。よくぞ、やってくれた」
「有難きお言葉。痛み入ります」
皇城の謁見の間にて、皇王陛下から労いの言葉を賜る。
「これで国の脅威は去ったと考えてよいのだな?」
「一時的に・・・ですが。そう捉えて貰ってよろしいかと」
「何かを含んだ物言いだな?」
「はっ! 失礼しました。ですが、元凶を討たねば安心はできません」
「元凶―――とは、ドラゴンなのであろう?」
「その通りでございます」
「それを討つ、というのか?」
「・・・・・・はい」
確信をもって頷き返すが、陛下は半信半疑と言ったところだろうか。
「聞いたところによれば、その元凶であるドラゴンの計画というのはかなり壮大なものだったのだろう? それが頓挫したというのに、ドラゴンはまだ諦めぬと申すのか?」
「はい。決して諦めることはないかと」
「なぜそのようなことが言える?」
「偏に、私と同じだからです」
「其方と?」
「はい。彼のドラゴンは私と同じ性質を持ち合わせています。同類であるが故に、それがわかってしまうのです。決して諦めることはないと。完膚なきまでに叩きのめし、立ち上がろうという気力を奪うか、その命の灯をかき消すか、あるいは・・・」
「あるいは・・・?」
「別のなにかに興味が湧かない限り、何度でも。どれだけの時間が掛かろうとも、願望を叶えるために動くことを辞めはしないでしょう」
「其方がそうであるようにか?」
「はい。私がそうであったように」
陛下は少し俯いて、顎を撫でて思案する。
「こう言ってはなんだが、其方にそれほどまでの執念を感じたことがない。現に、冒険者という職も捨ててしまったのだろう? 蔑み謗るつもりはないが、ギルド職員や教師という立場に特別興味を持ったわけでもあるまい?」
「その通りではありますが、それはあくまで生活のため。望みや願いといったものの類とは別のところにあります」
「なるほど。言われれば、そうだな。では、冒険者であったころの夢とは、なんだった?」
「親友の夢と同じ景色を見ること・・・でしょうか?」
「親友・・・というのは、クライフのことと思ってもいいのだな?」
「もちろんです」
「そうか・・・」
優しく和らぐ表情を羨ましくも思う。
「しかし、恥ずかしい話だが。父でありながら、私はクライフの夢を知らん。良ければ教えてはくれぬか?」
「生憎、私もとんと。昔、訊いたことがあったのですが・・・恥ずかしがって教えてはくれませんでした」
「はっはっは! 男らしいと言うとおかしいが、身に覚えがあるような話だ。しかし、そうなると其方の夢は―――」
「ご子息が満足する場所まで付いて行きたかったのですよ。叶えることこそ出来ませんでしたが・・・」
「済まぬな」
「いいえ。我が不徳のなすところです」
「・・・立ち上がろうという気力を失ったのか?」
「仲間の思いや、その命とは替えられませんから」
「そうか・・・・・・そうだな」
僅かな沈黙を置いて。
「ドラゴンにもそのようなものが居るのか?」
「可能性がないわけではありませんが、限りなく低いでしょう。彼の者は家族を奪われた復讐に燃えているようなので」
「それがなぜ、人へ向く?」
「神への反逆なのですよ。神とはいわば、誰かの理想でしかありませんから。その証明をしたいのか・・・もしくは、己が管理すればそのような被害は起こりえないという思い上がりかはわかりませんが、その結果かと」
「教会の定義上、神と呼ばれる男がそのように言うとはな」
「私は神を見たことがありませんので。その存在には懐疑的です」
「其方は南の霊峰にて、ドラゴンを退けたのだったな? それでも話し方がこのようになるということは、それらは別の個体なのだろう。それらを踏まえて聞くが、他のドラゴンがその者を野放しにするのはなぜだ?」
「彼のドラゴンが周囲から加護の力を奪うからです」
「加護の力を?」
「はい。ドラゴンというのは人より優れた種であるというのが通説ですが、神の存在をも知覚できるのだとか。それ故に、加護をもたらす神を人以上に崇めているそうで。そのせいで加護の力を奪われるということを、我々人間よりも恐れている・・・というのが、南の霊峰アドレスで龍王から聞いた話になります」
「そんな話まで聞いておいて尚、其方は神を信じぬと・・・?」
「私は神を見たことがありませんので」
勝手に崇められ、都合のいい願いを一方的に押し付けられ、叶わなければ蔑み謗られるだけの哀れな存在など、居ない方がいい。
やれやれと首を振る陛下の前に、
「参上が遅れてしまい、誠に申し訳ありません」
重要人物が遅れてやって来た。




