探し出して決せよ6
しかしそうなると、いつからあの指示役は飾りになった? 目としての役割は残ってるのか?
取り残された指示役を注意深く観察するまでもなく、歪な壁が答えを示す。
いや、答えは勝手に出ただけか。
「何を勝手に動いている⁉ 私の声に従えッ‼‼」
そうやって喚くも、操り人形のような信者達は動かない。
あまりにも皮肉な話だが、自らで引いた糸じゃなけりゃ手繰ることも出来やしない。
それでも似たような戯言を並べ、いい加減我慢が利かなくなったんだろう。
信者達に直接触ろうと近付いた。
それが運の尽きだったわけだ。
目の前にいるように見えても、それは見せかけだけだ。
空間を弄って自分に続く人の壁を真っ直ぐに見せないための虚構。
本来あり得ないはずものもがそこに在るなら、本来あるべきものはどこへ行ったのか?
それは指示役の伸ばした右手が教えてくれた。
そこにはない―――ただそれだけを。
何の気も無しに右手を伸ばし、信者へと手が届かないことを疑問に思う。そして手を引き戻すと、手首から先は食いちぎられたように、消えていた。
理解の拒否。
消えない疑問と消えた掌。
一瞬の間が抜け、咆哮。あるいは絶叫か。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ‼‼‼‼‼‼」
手首を押さえても、出血が止まる気配はない。
一歩、二歩と後ずさる。
その体は雷にでも撃たれたかのように硬直しながら、けれど懸命に逃げた。現実から。
言葉にならないのは痛みのせいか、怒りのせいか。
次第に。涙を浮かべた顔は天を仰ぎ、うわ言のように何かをつぶやく。
だがその言葉と内容を知ることはない。
見ようとしなかった現実は牙を剥く。
逃げた先にあるのは破滅。
満足に動かない脚で後ずさろうなんざ無理があったんだろうさ。踵が地面を擦り、足裏は空を踏む。
普通なら尻もちをつくような格好になるだろうに、天に心を奪われた体は。空へ憧れるように真っ直ぐと伸びたまま、境界を超えた。
歪められた空間はなにも、人が居る場所だけじゃない。
それを教えてくれたことにだけは感謝しよう。
倒れた指示役にはもうなにも、のぞむことさえ叶わない。
遠目からでもわかったのは、血が流れていることだけ。
それが頬を伝うってことは・・・そこより上に傷があるってことだ。
指示役は仰向けに倒れてるってのにな。
さて、迂闊に動けば二の舞だ。
かといって、手掛かりになるのは連なるように続く人の壁。
押し込むにしても、兵達をどうするか。
悩むべきなんだろうな。
そんなズレた感想を抱いた。




