覚悟して撃てよ3
工程は予定通りに進み、予想した結果を導く。
壁は崩れ、反撃は抑え、侵攻は叶った。
過程に僅かな差はあれど、成果に文句はつけられない。
それほどまでに狙い通り。寸分違わずというところ。
差異は3つ。
1つは壁に掛けられていた魔法は崩壊以外にも再建築のような、原状復帰の効果があったこと。
停止させるか迷ったが、後始末を考慮して放置。
勝手に戻ってくれるなら、それに越したことはねぇなと。
2つは迎撃の角度。
上から下へ。それはそうなんだが、直線ではなく曲線。
一旦、空へ目掛けて撃ち出す曲射だった。
おかげで壁の形を変えるハメになった。
この弓の運用法は大人数戦を想定していたなら、戦術として正しい選択だ。
なぜなら反撃されないからな。
淵に立って直線的に撃つ時と比べ、手数・効率・危機管理の全てで勝る。
唯一劣るとすれば命中性ぐらいだが、そこは手数で補える。
気になるのは、どうして戦術をこうも即座に切り替えられたのか。
射撃命令を出していた目が優秀なのか? それにしては突入から応射までが早かった気がする。陣形や手段の変更を行った気配を感じなかった。
それとも、各門での情報から。次の俺達の動きを予測していたか?
だとすりゃぁ軍師の真似事が出来る奴がいるのか、もしくは教祖自身が?
その場合は―――・・・いや、今は考えるだけ無駄か。
残る3つ目は疲労。
全員に身体強化の魔法は掛けた。
それでも色濃く顔に出る。
ジェイド達は融合強化。ユノにも俺が掛けた。
ケイは身体強化だけだが、それほど苦しそうでもない。普段から走り回ってたのかもしれねぇ。
ただ兵士達はそうでもなかった。
図体がデカいせいで燃費が悪いのか、肩で息を吐き、唇を紫に染めるものまで。
かといって、止まれるわけじゃない。
止まれたとして、そんな短い一息でまた走り出せるはずもない。
終わりの見えない全力疾走を、個々人の資質を無視して作戦に取り入れたのは失敗だったかもしれねぇ。
そんなことを考えていた矢先に。
「止まってください!」
先頭を突っ切っていたユノが停止を告げる。
ここも建造物の隙間ではある・・・が、幾つもの建造物に囲まれながらも、それぞれの切れ目と重なることで、狭い通路から繋がるにしては不釣り合いな広さを持つ空間が広がる。
ぱっと見じゃ通路は左右の2つ。
しかし、
「ここに直線の道があります。それを隠すように結界が敷かれていますけど、この道が見える方は他に居ませんか?」
ユノはそうではないと断じ、賛同を募る。
尤も、その声に参じる奴はいないんだが・・・。
賛同者が居ないとみるや、ユノは壁に向かって手を伸ばす。
そして誰もが見る。
伸ばされた細い腕が、壁に飲み込まれる様を。
それは間違いなく、結界による現象。
「通路に残ってる奴はどれぐらいだ?」
「半分ってところさ。この空間は広いとはいえ、全員は無理だよ」
丁度、真ん中辺りに配置していたケイが答える。
その言葉通り、この空間に収まれそうなのは精々詰めて50人。
ギッチギチのむさくるしい空間にしたいわけでもねぇから、余裕をもって各通路と中央で20人ずつに分かれて通路ごと結界で封鎖しちまうか。
各通路の殿にはジェイド、リミア、ケイを配置して緊急時の報告を任せる。
時間を稼げりゃいいわけだから3M程度の壁でも十分だろう。




