話半分
いつぞやの森横平地。
俺にとっては見慣れたホームグラウンドに、俺・ヨハン・リミア・ジェイド・キューティー・ケイト・エイラ・ユノ。そして、なぜかサンまでもがそこにいた。
「なんでお前まで?」
「朝から呼び出されて引き渡しだけ・・・って、普通に気になるだろ? 知らない仲じゃないんだし・・・」
「パーティーは?」
「今日は元から休みの予定だったよ」
「そいつはご苦労さんだな」
サンは皇都登録で唯一のA級パーティーのリーダーなんだが・・・貴族のお偉いさんからすれば使いっぱしりに過ぎない、か。
そのせいで朝からお使いとはな。気の毒なことだ。
「それで、さっきの紙のことだが・・・どういうことだ?」
教官に聞いてもはぐらかされるか、最初からそう言っていただろう? 今さらなにを・・・ってな具合でごまかされるだろうから、ジェイド達に尋ねる。
「あれは・・・父上がそういったん、です。ゼネス、さんの下で指導を受けるなら、冒険者を続けてもいい・・・と」
ぎこちない敬語でジェイドが話す。
それが見ていられなかったのか、
「私達はこの間の事件で冒険者を続けることを反対されていたんですけど、ズダーク伯爵が私達の親と話し合ってあなたの指導を受けるなら、と条件付きで許してくれたんです」
エイラが詳細を語る。
「ズダーク伯爵はあなたのことを知っていたみたいです。それに、私達の親も心当たりがあったのか、それなら・・・と。あなたに冒険者と認められなければ、潔く諦めよとも言っていました」
何者なんですか? とエイラは続けるが、俺はすでに目の前で名乗りを上げたと思うんだがな?
「あなたが何者かなんて正直どうでもいいのですわ! はやくジェイド様を冒険者だと認めて頂ければそれで結構ですの! あなたの伝説なんてジェイド様がすぐに塗り替えて差し上げますことよ!」
「伝説?」
「そういえば鍛冶屋さんでも言ってましたね? 伝説の冒険者・・・とか」
「そのようなことを言っていた気がしないでもないのですが・・・あまり覚えていませんし、思い出したくもありません」
キューティーが言った伝説という言葉が伝播する。
「伝説って?」
それを、止めとばかりにユノが目を輝かせて聞いてくる。
「あぁ・・・つっても、俺よりはそこにいるサンの方が詳しいんじゃないか?」
「俺が⁉」
「聞いたことねぇか? 皇都ギルド出身で2人組の冒険者が実は貴族とかで―――って、話なんだが」
「・・・そういえば・・・・・・」
いきなり振られ慌てていたサンだが、思い出してみれば・・・と言葉が繋がる。
「15年くらい前、どこかの大きい貴族の息子2人が冒険者になった・・・みたいな話は聞いたことがある。けど、伝説って程じゃないだろ? それだったら、あの皇都出身のS級パーティー”進歩の歯車”の方がよっぽど有名じゃないか?」
「そのS級パーティーを作ったのが、どっかの貴族の息子なんだよ」
「嘘だろ⁉」
「嘘じゃねぇよ」
「たった2人で怪力モンスターを倒してC級になって、天才魔法使いに魔法も使わずに勝って仲間にして、B級の時にワンダーゴーレムを討伐して以来、5人になってからは南の霊峰で札消しに明け暮れてたあの”進歩の歯車”⁉」
「どの”進歩の歯車”だよ! ほぼ全部間違ってんじゃねぇか‼」
人伝に聞いた~の繰り返しで出来るのが噂だってのはわかるんだが、それにしてもだろう。
「え⁉ 違うのか⁉」
「全然違ぇよ・・・C級になるのに怪力モンスターとなんか戦ってねぇし、天才魔法使いとも戦ってねぇ」
「じゃぁワンダーゴーレムとも・・・⁉」
「それは戦ったが、A級になった後の話だ。札消しにも明け暮れてねぇ」
そうか・・・とホッとした後、そうか・・・と今度は若干落ち込んでいるらしいサン。
「伝説の内容を訂正しようとは思わなかったのか?」
「伝説だとか、言われてるのは知ってたが・・・内容まではな」
「それはそうか・・・噂は噂。本人に言うようなことじゃない、か」
噂を口にしている間は早口になっていた・・・もしかすれば、憧れでもあったのかもしれねぇな。
いつも、こうやって落胆させることになる。だから、あんまりこういう話はしたくないんだよ。なにか悪いことでもやってる気になるからな。
「と、まぁ・・・今や勇者と呼ばれるS級パーティーにいた、元メンバーってだけの話だ」
話についていけてなさそうな残り全員には、最低限それだけ言っておいた。