どこにでもある話
「フェリシアは実験だったんだろ? アンタの孫より年上で、より真面目なあいつは丁度いい相手だった」
今のフェリシアは間違いなく冒険者だが、出会った頃は敬虔な信徒そのものだった。
俺が抜けてもパーティーに残ったのは、長い時間の中でちゃんと冒険者になったからに過ぎない。
なら、あのユノはどうか?
同じ時間を過ごすのは教会の信徒。
共に暮らすのはその中の頂点たる教皇。
となれば、当然。
憧れはより強く。幻想を超え宗教となるだろう。
あの目はそういう目だ。
「・・・・・・まさか、たった一つの食い違いでそこまで気付くとは思わなんだ。随分、成長したようだな・・・」
沈黙を守っていた爺さんは、
「あの娘には立場が必要だ。それはこの私のせいだ」
落ち着いたしゃべりで、
「私と、息子のせいだ」
嘆くように話始めた。
まとめると、
グレアムは生まれつき高い加護レベルを持っていた。
だが、息子はそうではなかった。
しかしながら、息子が生まれた時点で大司教の座についていたこともあり、息子を教会組織に入れた。
当たり前だが息子にはそれなりの試練となった。
修道学院には教会関係者の子供が多く、加護レベルは人物評価に直結する。
息子は虐げられ、両親に縋ったが、返ってくるのは努力しろという言葉のみ。
いつの間にか、息子は両親に頼るのをやめた。
それを成長だと受け取った。
だが・・・そうじゃなかった。
息子は教会内にある別の派閥に所属していた。
それが、改宗派と呼ばれる派閥で、現在の教会の在り方は間違っているとし、新しい信仰を確立するという派閥らしい。
最初は話し合いでどうにかなると思っていたが、その時期はとうに過ぎていたようで交渉は決裂。
改宗派は叩き出される形で皇都を去った。
その時に残されたのがユノであり、当時すでに3歳を超えていた。
三つ子の魂百まで。ということから厳しい立場にあったが、教皇としてこれを保護し、再教育という名目で俺の存在を語った。
と、いうことらしい。
「失望したか?」
「さぁな? 失敗なんざ誰にだってあるだろう」
加護レベルは両親から受け継ぐ場合が多い。
双方の数字を足して、割った数字がほとんどだと言われてて、上限についても両親と同じ程度だとされいている。
だから、仮に生まれた時の加護レベルが低くても、成長と共に上昇することもあれば、修道の旅で上がることだってあるだろう。
そういう意味では努力しろってのは間違いじゃねぇ。
ただ、例外はどこにだってあるんだ。
もっと慎重になれなかったのか、とは思う。
「だが、フェリシアの件は? 起きたっていう問題も、アンタが仕組んだのか?」
「言うても信じられるかはわからんが、流石にそこまではしとらん。ただ、都合がよかったのは確かだ。あの娘の・・・ユノの再教育はうまくいっとらんかったからな。真面目で、芯の強いフェリシアは確かに丁度良い実験体だったというわけだ」
「今のあいつが不幸だとは思わないが・・・あんたの孫はどうだろうな?」
「わからんさ・・・息子のことすらわかってやれなかったんだからな」
なにかを信じられるってのは幸せなことだ。
自分の根源に力を与えてくれるからだ。
だが、それがまがい物だったと知った時、裏切られたとわかった時、変わらず幸せでいられるやつはどれだけいるだろう?
ならばせめて、今の俺に出来るのは理想と現実をすり合わせることぐらいだろう。
落差に打ちひしがれてしまわないように、依頼までに本物の俺を、たいしたことのない俺を教えてやるとしよう。
そう考えて、裏口に手をかけて・・・気になった。
「あの時、なんで俺の前に現れた?」
息子の影が俺に重なったか?
だとしたら、後悔か? 贖罪か?
それとも、憐れみか・・・?
「ただ気になっただけだ。加護などなくとも構わないんじゃないか、とな」
「・・・そうか」
「なぜ笑う?」
「別に・・・ただ、」
裏切りは確かにあった。
守るといったはずの約束が破られていたんだから。
だが、それでも、
「やっぱりアンタは恩人だったってだけだよ」
俺は幸せだと思えるんだ。




